『花束を彼女(の為)に(探しに行ったアークライトが遭難した苦難と困難の7日間の全て)』
4日目 カイザリア帝国 旧帝都 先の大戦に於いて廃墟と化した都市、旧帝都。 慣例で「旧帝都」と呼ばれてはいるものの、この町には本当の名前がない。 何故名前がないのかは誰も知らない。そしてこれからもここに正式な名前が付けられることもないだろう。 朽ち果てた家々の向こうには青みがかった銀色の塔がそびえている。 そしてこの塔にも名前がない。 かつてこの領土に存在した別の帝国の最後の皇帝ネルクスが建設を命じたのだが、彼の暗殺によって塔の建設は四百年前からずっと途中放棄されたままとなっている。 彼が一体何の目的で塔の建設を命じたのか……。 ネルクス暗殺より幾星霜、今となっては、もはや真実が闇から解き放たれることはないだろう。 |
「その通りその通り。」
「あれ?
おや、グラン君。
久しぶり。」
「うむうむ。
久しい久しい。
そうそう、遅くなってしまったが師団長就任おめでとう。」
「うん。ありがとう。もう数年前の話だけどね。」
「ところでところでわぬしはここで何をしておったのか?」
「うん。どうやら道に迷ったみたいなんだ。」
「左様か左様か。
して、
わぬしは一体どこへ行こうとしていたのだ?」
「うん。エーデルワイスを探しに。」
「左様か左様か。」
「…………」
「左様か左様か。」
「…………ねえ、僕の話聞いてる?」
「もちろんもちろん。
聞いている聞いている。
確かカワセミはセミとか名乗っている癖に何故鳥なのかという話だな。」
「違うんだけど、まぁいいや。
あれ?
その石版は……墓碑?」
「左様左様。
大戦で亡くなった母の墓碑だ。
色々忙しくて埋めに来るのが今になってしまったのだがな。」
「そうなんだ……。
あれ?
グラン君は確か母方がグリフィス君と親戚なんだよね?」
「左様左様。
そういえば奴も長いこと会っていないな。
我が輩の従兄弟のグリフィスは元気か?」
「うん。
まだ生きてる。
時々死にそうになってるけど。」
「左様か左様か。」
「…………。」
「左様か左様か。」
「…………ねえ、僕の話、聞いてる?」
「もちろんもちろん。
聞いている聞いている。
シルバニアに高枝切りバサミを使う変な兵士がいるという話だな。」
「違うんだけど、まぁいいや。
そんなわけで僕は先を急ぐから。
じゃね。」
「左様か左様か。」