『祖父を訪ねて三千里』
2日目 ヴァンドレディ公国 ヴァンドレディ、あるいはヴァンドルディと呼ばれる小さな公国。 もともとはどこか別の大陸の言語方言で「金曜日」を意味するらしい。 しばらく前までは国家継承権を巡り議会側と公爵家側が争っていたが、 隣国シルバニアの調停により、現在は公爵家側の遠い跡取りが暫定的に国を治めている。 もっともそれは5年という条件つきではあるが……。 |
「うん、シルバニアからセントラル港に行くのに、
ちょっと道を間違えてしまった気がするなぁ。
誰かに聞いてみよう。」
「ちょっといいかい?」
「……うっとり。」
「???」
「ああ、失礼。酒瓶にうっとりしていたもので。」
「うん、酒瓶?」
「そうだ、これだこれ。見てくれ。うっとり。
エルメキア産のシャイルワイン607年生産の逸品だ。
ああこの表面のなめらかさ、そしてコルクの肌触り。」
「???」
「うっとり。
…………ああ、また失礼。
ところで何かお困りのようですが?」
「うん。実は道に迷っちゃって。」
「そうですか。
実は私もワインの瓶を一つなくして困っていたところなんです。
公爵様の所に持っていこうと思っていたんですが……。」
「うん、ワインはまた買えばいいんじゃないの?」
「間違えないで下さい。
私が興味あるのはワインの瓶であって、
その中身はどうでもいいんです。」
「じゃあ中身はどうしているの?」
「捨ててる。いらないし。」
「……うん、なんとなく間違っている気がするけどまぁいいや。
ところでちょっと聞きたいんだけど、
セントラル港に行くにはどう行けばいいんだい?」
「このままとりあえず南に向かって、
次の街道分岐路を西に。すると大きな街道にでるから、
そこから南にまっすぐ向かえばいい。」
「うん、ありがとう。」
「いやいや。では私はお城に急ぐので。ああうっとり。」
「えっと、この道を南に行って………………。
それからどうするんだっけ?
うん、とりあえず行けるところまで南に進んでみようっと。」