『失われた7枚』if 〜昔話編 その3〜
・大陸歴641年編 |
「あきらめろ。」
(ああ、王子様……。
どうして貴方はそんなに格好いいのかしら?
でも、私みたいな妄想癖の子とは不釣り合いよね……。)
「あれー?アリスちゃ……じゃなくてシンデレラ?
どこに居るのー……あ、いた☆
……またこんなところでぼーっとしてる。」
「シンデレラ、そんなところにいたら風邪引くわよ。」
(ううん、それ以前に身分の差があるわ。
あの方はこの国の王子。そして私はただの一般市民。
でも……この想い、どうしてもかき消すことが出来ないのっ!)
「ちょっとー、シンデレラー?聞いてるー?」
「せっかくお城から舞踏会の招待状が来たのに……仕方ないわね。
手紙を置いていきましょ。
そうすればあとから来ると思うわ。」
「そーねー☆
でもこの子ってよくぼーっとするわよねぇ。
いつも何を考えているのかしらぁ?」
(でも、でも、それでも私は貴方の事が……
『シンデレラ、実は俺もずっと君の事を見ていたんだ。』
『えっ!?』『身分なんか関係ない。俺と結婚してくれないか?』)
「……エリーゼちゃん、シンデレラのドレスはどうしよっか?」
「用意しておいてあげましょう。
きっとこの子のことだから、気がついた頃には夕方になってるでしょうし。
それに馬車も呼んでおいてあげましょう。そうすれば間に合うと思うわ。」
(『でも……私なんか……不釣り合いです。王子様にはもっと素敵な人が……』
『俺が君の事を気に入ったんだ。それ以上の理由が必要かい?』『……えっ?』
『さぁ、愛の口づけを……』『あ…………』)
「そうねー☆
じゃあ、シンデレラ、
先に行ってるわよー☆」
「……はっ!
そういえばお姉さま方、私をお呼びになりました?」
(あ、あら?手紙?……え?お城で舞踏会!?)
(さては私を置いて行ったのね……負けないわ。でも負けないわっ!
あ!こんなところにドレスが。
ああ、きっと親切な魔法使いさんが置いていってくれたのねっ!)
(ああ、馬車まで用意して下さって……ありがとう、魔法使いさんっ!)
「なぁ、なんで俺が馬の役なんだ?」
「俺様が御者か。ちゃきーん。」
「ああ、御者さん、お城までお願いできるかしら?」
「イェッサー!ちゃきーん!」
「…………。」
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「ユリアお姉さま、」
「あら、エリーゼちゃん、なぁに?」
「肩まで出して大胆……。」
「えへへぇ☆どお、色っぽいでしょぉ?
そういうエリーゼちゃんだって似合ってるわよぉ☆
あ、珍しくちょっとお化粧してるー☆」
「い、いいじゃない、たまには私だっておしゃれしたいもの……。」
「ひょっとしてお目当てはあの人でしょ?ねぇねえ、どうなのよー?」
「……何かお呼びですか?」
「あのねー、エリーゼちゃんが一緒に踊って欲しいって☆」
「わ、私はそんなこと……」
「光栄ですな。……さ、お手をどうぞ、見目麗しきお嬢さん。」
「きゃー、見目麗しきだってぇ☆
きゃあきゃあきゃあ☆
かっこいー☆ひゅーひゅー☆」
(……ロウクス君?)
(なんだよ?)
(どうしちゃったの?そんな台詞、恥ずかしくない?)
(う、うるせぇなぁ!俺だって我慢してるんだよっ!)
「いーなー。
あったっしっのアークは……来てるわけないわねぇ。
仕方ないからワインでも飲んで待ってよっと☆」
「諸君、今宵は集まっていただきどうもありがとう。心より礼を言う。」
「……お前、誰?」
「レナードちゃん、なんか別人ねー☆」
(きゅんっ……)
「……君は……」
「……シンデレラ、です……」
「シンデレラ、よければ……私と踊ってはいただけませんか?」
「あ、はい、喜んで……」
(ああっ!12時になってしまうっ!魔法が解けてしまうわっ!)
「ごめんなさい、私、もう帰らなくてはいけないんですっ!」
「どうした、シンデレラ?何か急ぐことでも?」
「どうしたの、シンデレラー?」
「……何かあったのかしら?」
「理由は言えません。ごめんなさいっ!」
「待ってくれっ、シンデレラ!」
「あ……ガラスの靴がっ!」
(でも……魔法が解けてしまうっ!
取りに行っている暇はないわ……)
「シンデレラっ!」
「…………さようならっ。」
「シンデレラっ!戻ってきたまえっ!」
「!?」
「あ、ここだここだ。やっとついた。
……うん、どうしてみんな僕の方を見ているんだろう?
僕の顔に何かついてるかい?」
「こういうのはタイミングいいっていうのか、それとも悪いっていうのか?」
「あ、ジュリアさん、待った?」
「うん。思いっきり。」
「……一瞬でも彼女が戻ってくることを期待した俺がいけなかったのだろうか……。」
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(はぁ……私の夢ももうおしまいね。
王子様……貴方の瞳、貴方の唇……。
ああ、どうして貴方は私の心を離してくれないの?)
「あ、こっちこっち、この部屋にいるわよぉ。」
「あ、はい?」
「失礼する。」
(えっ!?ど、どうしてっ!?どうして王子さまがここにっ!?)
「このガラスの靴は貴方のも物ではないのか?」
「えっ!?」
(えっと、そうよ、昔話で読んだわ。
ここで正直に答えないと金の靴と銀の靴が……)
「貴方を、お迎えに上がりました、シンデレラ姫。」
「えっ!?」
「私の后になってはいただけませんか?」
「……はい、喜んで……。」
「……なぁ、ふと思ったんだが、」
「どうしたの?ロウクス君?」
「いや、エリーがあのガラスの靴を履いて、」
「えっ……!?」
「割れなければいいなぁと。」
「蹴りぃぃぃぃぃっ!」
「い、痛ぇ……冗談なのに。」
「あたりまえですっ!私はそんなに重くありませんっ!」
「じゃあ抱きかかえてみてもいいか?」
「えっ!?」
「……と思ったけど腕折れたら嫌だしな。やーめた。」
「蹴・りぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」