TITLE: 第13の機構 −街路に潜む水難事件−

大陸歴 599 11 07 ブランドブレイ王国
ブランディウム城
地下2階 廃棄物倉庫
大陸標準時 08:45 am

MESSAGE:
「……長官、前から気になっている事があるんだが。」
「なんだね? 手短に言いたまえ。」
「なんでこの部屋の入り口には『廃棄物倉庫』とか書いてあるんだ?」
「誰かが書いたからだろう。」
「いや、俺が聞きたいのはな、そう言う話じゃなくて……。」
「つまり君は、
 この諜報部が何故あのような部屋名の看板を
 掲げているのかという質問をしているのかね?」
「ああ。そうだ。」
「無論、カモフラージュに決まっているだろう。
 公には存在しない『諜報部』の看板をわざわざ出す事もあるまい。
 なにより、敵を欺くにはまず味方からとも言うだろう?」
「欺きすぎなんだよっ!
 さっきも城のメイド達が壊れたタンスを
 部屋の入り口に置いてたぞ!?」
「ほほう。
 では後で修理して使うとするか。
 確か工具箱がそのあたりに……。」
「このままじゃ本当に粗大ゴミだらけの部屋になっちまうぞ、ここ!?」
「諜報部という第13番目の機構が公に認められていない以上、
 予算も人員も慢性的に不足気味だ。
 つまり、組織維持の為にはリサイクルの精神こそが大切なのだ。」
「だからって本当に廃棄物倉庫にしてどうするんだよ……。
 ……なんで俺、こんな組織に入ったんだっけ。
 それはそうと長官、新しい任務と聞いたんだが。」
「そうだったな。
 ではひとまず、盗まれたミルククッキーでも
 探してきて貰おうか。」
「よし分かった、帰る。」
「冗談だ、冗談。茶目っ気の通じない奴だな、まったく。
 ……本題に入ろう。近頃、雨も降っていないのに
 都市の各所で水たまりが大量発生している事件は知っているか?」
「いいじゃん、水たまりぐらい。誰かの悪戯だろ?ほっとけば?」
「……それもそうだな。よし、この問題は解決。」
「っておい。そんな適当でいいのか?」
「……書類上は君が任務に失敗したことにすればいい。」
「悪かった。俺が悪かった。ちゃんと話を聞くから説明してくれ。」
「この地図で印の付いている場所が主な発見地点だが、
 見ての通り都市全域に分散している。
 どこか一点に集中しているわけでもなく、特に規則性は見いだせていない。
 これが自然的なものか人為的なものなのかは、現段階では不明である。」
「悪戯にしちゃ規模がでかすぎるってことか……。」
「……その通り。
 そして残念ながら、この件で被害者が出てしまった。」
「被害者?」
「オリビア通りのブロンディ婆さんが、水たまりで転んで全治2時間の打撲だ。」
「……全治2時間!?2日とか2週間とかでもなく?
 別に大したことないじゃん、それ。
 っていうかどうして水たまりの中わざわざ歩くかなぁ。」
「童心忘れるべからずという事なのだろう。」
「いや、確かに子供って水たまりに足つっこむの大好きだけどさ。そういう問題なのか?」
「とにかく被害者が出ている以上、我々としても調査せざるを得まい。」
「なぁ、事故調査なら騎士団の管轄じゃないのか?」
「無論、2月騎士団に調査命令が下った。先週のことだ。
 しかしながら、原因どころか手がかりのひとつすら見付かっていないという。
 今日に至るまで、水たまりは未だに増え続ける一方だ。」
「あの精鋭の2月騎士団が空振りとは。確かに妙な話だな。」
「私もそこは疑問に思ったのだよ。
 もしかすると2月騎士団は事実を突き止めたものの、
 何らかの理由で真実を隠している可能性はないだろうか?」
「つまり、水たまりの原因あるいは犯人を見つけ出すと同時に、
 2月騎士団についても動向を調べればいいんだな?」
「その通り。」
「わかった。
 それで今回、長官は何を担当するんだ?」
「私か?私は昼食担当だ。」
「……は?」
「私はこれからプリマベラ亭でランチを食べてくる。
 その間に調査しておいてくれたまえ。」
「……なぁ、それってずるくないか?」
「何を言う、れっきとした上司の特権だ。では後は任せたぞ。」
「……そんな特権はじめて聞いたぞ。」

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