『真実の抹消者(前編)』
「で、そろそろ正直に吐いたらどうだ。」
「いや、だから俺は何もしてねぇって!
カイザリアの隠密兵として、
あの女を追っていただけだ!」
「ふむ。では何故その隠密兵が、
我がブランドブレイ王国領で主権侵害を行う?
貴殿が外交官でない以上、特権もまた存在しない。」
「ジャンヌ=グリフィスは指名手配されてるんだ。
それも最重要人物として……ん?
なんで俺が隠密兵って知ってるんだ?」
「お前が今自分でそう言っただろ。」
「畜生、罠かっ!」
「……いいから白状しろよ。俺早く帰りたいんだ。」
「それが本音か。一体何を白状しろっていうんだ。」
「カツ丼喰うか?」
「カツど……なんだそれ?」
「確かハポンだかヤーパンだか、
遠い昔に地球の反対側にあった国の
料理の一種らしいぞ。自白剤の効果があるとか。」
「俺は無実だ!
この街に来る途中のダブルブリッジ市で、
うっかり標識倒しちまったけど黙っていればバレないはずだ!」
「罪状ひとつ追加、と。」
「しまったぁぁああああ!」
「……言いにくいけどお前さ、
何も隠密兵じゃなくて、他の部署に
配置換えしてもらったほうがいいんじゃないのか?」
「あんまり向いてないのは分かってる。
だけど、これだけがジャンヌと俺を繋ぐ接点なんだ。
放棄したらそれこそ手がかりは――。」
「ラグランジュ騎士団長!
今度は王城地下に侵入者が!
さきほど目撃談のあった、赤毛で小柄な女性と同一人物と思われます!」
「!!!」
「王城に侵入だと?
何故……いや、それどころではない、
国王陛下と王子殿下は!?」
「はっ。
現在までのところご無事です。
七月騎士団が守備にあたっております!」
「ならば王家の守護はノーベルに任せて、
俺は地下に向かおう。
えーと、そういやまだ聞いてなかったな。名前は?」
「ベル。アーノルド=ベル。」
「わかった、ベル。ついてこい。
カイザリアの密偵だか隠密兵だかは知らないが、
今はお前が手がかりだ。」