Forbidden Palace Library #J02 『真実の抹消者(後編)』

『真実の抹消者(後編)』


シルバニア王国 王都
城壁地下取調室

ラグランジュ 「――それで、戻ってきた魔導原本とやらを厳重に保管するために、
 これほどまでにシルバニアの警備を強化しているのか。
 容疑者がこの都市に潜んでいるという情報でも上がったのか?」

ボイス 「いや、確かな情報はない。ウェルナー将軍の指示が唯一の根拠だ。」

ラグランジュ 「……なぁ、それって逆に、
 犯人に『貴方の探しているモノはここにありますよ』って
 言いふらしてるようなものじゃないのか?」

ボイス 「ワシもそう思い、進言した。
 だが、将軍閣下は聞く耳を持っておられぬ。
 魔導原本こそが大事であると。」

ラグランジュ 「なるほど、そのウェルナー将軍が
 何か鍵を握っている可能性があるということか。
 話が聞きたい、会わせてくれないか。」

ボイス 「ふむ。だが将軍閣下は多忙であらせられる。
 事前に約束を取り付け、
 その後、手続きを経てから――」

ウェルナー 「その必要はない。」

ラグランジュ 「え?」


がちゃっ

ボイス 「ウェルナー将軍!」

ラグランジュ 「なるほど、貴方が。初めまして、俺は――」

ウェルナー 「ブランドブレイの騎士団長殿。
 貴殿は現在外交特権を有していない。
 何の故があってシルバニア領内にて活動している。」

ラグランジュ 「……国家反逆罪にて指名手配された犯人が、
 この国に潜り込んでいる。
 そいつを追っているだけだ。」

ウェルナー 「ボイス、お前もお前だ。
 外交官でもない他国の人間の言う事を、
 そう信用するものではないぞ。」

ボイス 「将軍閣下。お言葉ですが、ブランドブレイ王国は
 我が国にとって旧宗主国であり、
 公爵家の血筋も由来する――。」

ウェルナー 「それは昔の話だ。
 いまのシルバニアは王国として独立しておる。
 隣国の騎士団に内政干渉される言われはない。」

ラグランジュ 「…………。」

ウェルナー 「騎士団長殿。
 貴殿の容疑は現時点で無実と証明された。
 それゆえ解放するが、次はないとお思い頂きたい。」


ばたんっ

ラグランジュ 「……ひどい嫌われ様だな。」

ボイス 「すまん。」

ラグランジュ 「いや、お前が謝る事じゃないだろ。」

ボイス 「……昔はあのようなお方ではなかったのに。
 老い故か、あるいは――
 ワシも知らぬ何かを知っているか。」

ラグランジュ 「どのみち、協力要請どころか情報を聞き出すのも無理そうだな。」

ボイス 「捜査とやらは好きにするがいい。
 ワシの権限である程度の行動の自由は保障しよう。
 だが、くれぐれも目立たぬように気を付けてくれ。」

ラグランジュ 「わかった。」

ボイス 「それと何か情報を掴んだら、すぐにワシに知らせて欲しい。以上だ。」

ラグランジュ 「ありがとう。」

ボイス 「――ああ、そうだ。もうひとつ聞きたいことが。」

ラグランジュ 「うん?」

ボイス 「ブランドブレイ王国に、美味しいクッキー屋はあるかね?」

ラグランジュ 「知らん。」


▽……。



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