『真実の抹消者(後編)』
「――それで、戻ってきた魔導原本とやらを厳重に保管するために、
これほどまでにシルバニアの警備を強化しているのか。
容疑者がこの都市に潜んでいるという情報でも上がったのか?」
「いや、確かな情報はない。ウェルナー将軍の指示が唯一の根拠だ。」
「……なぁ、それって逆に、
犯人に『貴方の探しているモノはここにありますよ』って
言いふらしてるようなものじゃないのか?」
「ワシもそう思い、進言した。
だが、将軍閣下は聞く耳を持っておられぬ。
魔導原本こそが大事であると。」
「なるほど、そのウェルナー将軍が
何か鍵を握っている可能性があるということか。
話が聞きたい、会わせてくれないか。」
「ふむ。だが将軍閣下は多忙であらせられる。
事前に約束を取り付け、
その後、手続きを経てから――」
「その必要はない。」
「え?」
「ウェルナー将軍!」
「なるほど、貴方が。初めまして、俺は――」
「ブランドブレイの騎士団長殿。
貴殿は現在外交特権を有していない。
何の故があってシルバニア領内にて活動している。」
「……国家反逆罪にて指名手配された犯人が、
この国に潜り込んでいる。
そいつを追っているだけだ。」
「ボイス、お前もお前だ。
外交官でもない他国の人間の言う事を、
そう信用するものではないぞ。」
「将軍閣下。お言葉ですが、ブランドブレイ王国は
我が国にとって旧宗主国であり、
公爵家の血筋も由来する――。」
「それは昔の話だ。
いまのシルバニアは王国として独立しておる。
隣国の騎士団に内政干渉される言われはない。」
「…………。」
「騎士団長殿。
貴殿の容疑は現時点で無実と証明された。
それゆえ解放するが、次はないとお思い頂きたい。」
「……ひどい嫌われ様だな。」
「すまん。」
「いや、お前が謝る事じゃないだろ。」
「……昔はあのようなお方ではなかったのに。
老い故か、あるいは――
ワシも知らぬ何かを知っているか。」
「どのみち、協力要請どころか情報を聞き出すのも無理そうだな。」
「捜査とやらは好きにするがいい。
ワシの権限である程度の行動の自由は保障しよう。
だが、くれぐれも目立たぬように気を付けてくれ。」
「わかった。」
「それと何か情報を掴んだら、すぐにワシに知らせて欲しい。以上だ。」
「ありがとう。」
「――ああ、そうだ。もうひとつ聞きたいことが。」
「うん?」
「ブランドブレイ王国に、美味しいクッキー屋はあるかね?」
「知らん。」