★ 第二話 『繰り返す日常』 ★
「いらっしゃいませー…あ、ウィノナ。いらっしゃいー☆」
「ねぇ、知ってる?」
「知らない。」
「……私まだ何も言っていないんだけど。」
「で、ウィノ、なにかあったの?」
「今ここに来る途中で聞いた話なんだけどね、
ほら、住宅街のパン屋さんあるじゃない?
あそこのアリスさんがこの国の将軍と……」
「あ、二人がつき合っているって話?」
「知ってたの?」
「うん。うちのおねーちゃんがこの間教えてくれた。」
「いけない関係になっちゃったのね☆」
「あのねぇ……そうじゃなくて。」
「だってほら、セルシウス将軍31歳でアリスちゃん19歳だから、
12歳も年下の女の子に手を出したことになるのよ☆
きゃっ☆ いっけないんだぁ☆」
「……何か根本的に誤解していると思うな、ボク。」
「アンジェリカ。どうしてすぐそういう思考になるの?」
「てへっ☆」
「てへっ、じゃなくて……。」
「やっぱりいけない関係なのね☆」
「……あーのーねー、だからそうじゃなくて……。」
「なにがいけないんじゃ?」
「あら、ラルフの爺。」
「わしもな、今日に孫に会いにいこうと思ったんじゃが、
結局道に迷っていけなくての。
道がわしを避けるんじゃよ。」
「その『いけない』じゃないと思う……」
「お孫さんの家?どこにあるの?」
「うむ、わしの隣の家なんじゃがなぁ。」
「どうしてそれで迷うのよ?」
「ただ真っ直ぐ進もうとするからいけないのよ。」
「うん、それはボクも一理あると思う。」
「カニ歩きすればいいのよ。」
「どうしてそうなるのよ?」
「おお、なるほど、カニ歩きか。」
「ラ、ラルフおじいちゃん?」
「うむ!では早速孫の家に行ってみるとするかの。」
「がんばってねー☆」
「……本当にカニ歩きしてる。」
「がんばってねー☆」
「……手までカニの真似する必要はないと思うんだけどな、ボク」
「それ以前にどうしてカニ歩きなのよ?
素直に従うラルフの爺も爺で……ってちょっと、爺!
どこに行くのよ!そこを正面に真っ直ぐ行くのよっ!」
「ほら、カニって正面方向に歩けないし☆」
「いつからラルフの爺はカニになったのよ?」
「あっ、あっ、
ラルフおじいちゃんっ、
そのまま通り越して城壁の方に行っちゃったよ?」
「……きっとそのうちに戻ってくるわよ☆」
「そのうちって、いつよ?」
「明日か明後日か明々後日には。……さて、お仕事お仕事☆」
「アンジェリカっ!」
「ところでウィノナ、ご注文は?」
「そーねー、ポテトフライをいただこうかしら。」
「はーい。 マスター、ウィノナに沢ガニのから揚げー。」
「違うわよっ!
なんでそうなるのよ?
それにカニはもういいから。」
「てへっ☆」
「てへっ、じゃなくて。ポテトフライ一つね。」
「マスター、ウィノナにエビドリアひとつー」
「誰もエビドリアなんか頼んでないわよっ!」
「エビダリア?誰、そんなこといったの?」
「貴方に決まってるでしょ、アンジェリカ。」
「……怖いもの想像しちゃった。」
「ダメよ、サフランちゃん。想像はパン屋の始まりっていうでしょ?」
「……パン屋って、なに?」
「え?住宅街の。」
「いや、そのぐらいなんとなく予想つくけど……。」
「とにかくアンジェリカ、ポテトフライ一つね。」
「はーい。 マスター、ウィノナにポテト……」
「こんばんは、入るよ。」
「あ、フィルさん。
いらっしゃいー☆
マスター、ウィノナにポテトフライをフィルさんのおごりで。」
「ち、ち、ちょっと待ってくれ。なんでそういう話になっているんだ?」
「自然の摂理。学校で習わなかった?」
「習っていないと思う……。」
「わかったわ。サフランちゃんのおごりね。」
「ボクそんなこと言ってないよぉっ!」
「けちっ☆」
「けちって、何か違うんじゃ……。」
「とにかく、私は自分の分ぐらい自分で払うわよっ。」
「はーい。フィルさんはご注文何にいたします?」
「いつものを貰おうか。」
「はい、いつものね。
マスター、
フィルさんにいつものストレートアイスティー。」
「あいよ。」
「……サフランといいフィルといい。
どうしてこの酒場ってアルコール以外のものを
飲む人が多いのかしら?」
「あたし飲むわよ☆」
「アンジェはボクと一緒でまだ未成年……」
「ところでフィルさん、氷はいる?いらない?」
「……話、逸らしたわね。」
「氷か。ああ、貰おうか。」
「マスター、アイスティーを氷だけでお願いー」
「あいよ。」
「ち、ち、ちょっと待ってくれ、誰がそんなこと頼んだ?」
「なによ、その氷だけってのは?」
「てへっ☆」
「ごまかさないの。」
「あいよ。アイスティー、氷だけ。」
「……アイスティーどころか氷しか入っていないぞ、このコップ。」
「だから、氷だけ☆」
「注文を曲解するウェイトレスもウェイトレスだけど、作るマスターもマスターよね……。」
「え?うちのパパがなに?」
「呼んだか?」
「遺伝って怖いわね。」
「いいから早くアイスティー持ってきてくれよ……。」
「はい、アイスティーおまたせ。」
「ん?今度は氷が入ってないぞ。」
「いまから入れてあげる☆ 適当な所でストップって言ってね☆」
「そうだな、少しもらおうか。」
「ありがとう。」
「いや、だからストップ。もういいのだが。」
「おい、それは多すぎるぞ」
「あ、おい、あふれるあふれる!」
「てへっ☆ごっめーん」
「いいながら入れるなぁぁぁあ、氷があふれてるあふれてる。」
「誰のせいかしら?」
「貴方よ、アンジェリカ。」
「だめじゃない、サフランちゃん。」
「僕じゃないよーっ!」
「なに?サフランちゃんも氷欲しいの?」
「そんなこと言っていないー」
「サフランちゃんにはもっといいものをあげる☆」
「ねぇウィノ、アンジェのあの目は何かよからぬことを考えている目だよね?」
「あらぁ☆
よからぬことだなんてそんなぁ☆
ただあたしはサフランちゃんに☆」
「ねぇ、アンジェリカ、その手に持っていてる瓶は何?」
「グレープジュースよ☆ 発酵させてあるけど☆」
「立派なお酒じゃないっ!」
「ヨーグルトだって発酵しているのよ?
ほら、同じこと同じこと☆
ね☆ どお?」
「ね☆、じゃなくて。
いいからそのお酒を元あったところに戻してきなさい。
……まったくもう、このウェイトレスは……」
「なにー?呼んだー?」
「いいから早くそのお酒戻してきなさいっ」
「……どうでもいいから早く俺にまともな飲み物くれよ。」
「まったく。すぐこうなるんだから。」
「誰のせいかしら?」
「アンジェ、人のせいにするのはよくないとボク思うな。」
「そう。サフランちゃんのせいなのね。」
「だからボクじゃなくてー。」
「言ってる側からこれだものね、アンジェリカは。」
「男の子がそんな些細なことにこだわってちゃだめよ☆」
「ボクは女の子だようっ!男の子じゃないもん。」
「え?どれどれ☆」
「きゃっ!?」
「ち、ちょっとアンジェ、どこのぞき込んでるのよっ!」
「サフランちゃんの胸。」
「えっちぃっ!」
「……サフランちゃん、本当に女の子?」
「う、うるさいなぁっ!」
「だって下着付けてないみたいだしー☆」
「す、するほどないのっ!」
「口調も男性か女性か分からない感じだし」
「ボクのこれは遺伝なのっ!
おねーちゃんだってそうだもん。
うーっ。」
「サフランちゃん、頭抱えてどうしたの?腹痛?」
「ちがうよぉっ!」
「腹痛でどうして頭押さえるのよっ!!!」
「じゃあ腰痛?」
「そういう問題じゃないんだってばぁ。」
「わかった、
草津の湯でも治らないっていうアレね。
ダメよ、あたしに惚れたら☆きゃっ☆」
「違うよぉっ!」
「でも草津の湯でも治らないのが
恋じゃなくて頭の病気だと思っている人も
世の中にはいることだし☆」
「誰の事よ?」
「さぁ?誰のことかしら?」
「全然関係ないじゃない。
……そのなんとかにつけるクスリがあったら、
是非とも貴方につけてあげたいわ」
「あたし飲み薬の方がいいなっ☆
ところで何の薬?
匂いを嗅いでいい気分になるのね☆」
「い、いや、そうじゃないと思う……」
「あらっ、アロマテラピーのことじゃなかったのね。」
「……アンジェ、何か誤解してる。」
「あ、わかった。サフランちゃんの胸が大きくなる薬?」
「ちがーうっ!」
「でもあたしはほっぺた柔らかいほうが好きー☆」
「アンジェー、ひっぱっちゃいやー」
「ちょっとアンジェリカっ!」
「ウィノナもいっしょにサフランちゃんのほっぺ触るー?」
「ふにゅうー。」
「だからそれをやめなさいって!」
「きゃーーー☆ 柔らかいーーー☆ ふにふにー☆」
「ふにゅうー。ほっぺのばしちゃいやー。」
「アンジェリカっ!」
「あのさ、どうでもいいから早くアイスティー……」
「のびるーーー☆ ふにふにーーー☆ おもしろーい☆」
「ふにゅううう。のばしちゃいやいやぁ」
「ちょっと、アンジェリカ!だから貴方って人は……」
「……えっと、俺のアイスティー……」
「きゃーーーっ☆ サフランちゃんのほっぺたーーー☆」
「ふにゅうーーー」
「アンジェリカっ!」
「……それはそうとさ、俺のアイスティー……まだ?」