4つ星の酒場


★ 第六話 『急転せし日常』 ★


からんころん

アンジェリカ 「いらっしゃいませー…あ、サフランちゃん☆」

サフラン 「やっほー」

アンジェリカ 「ねぇねぇ、サフランちゃん!
 最新情報なんだけど、こんな噂知ってるー?
 あちこちに現れはじめた幽霊屋敷の話。」

サフラン 「え、ユ、ユーレイ……?」

フィル 「幽霊屋敷?もしかして中央公園近くの噂?」

アンジェリカ 「そうそう。」

サフラン 「えっ……中央…公園……?今日、通ったよ…?」

アンジェリカ 「それがね、先の大戦の後
 住人のいなくなったはずのいくつかの廃屋から
 最近は夜になると話し声が聞こえてくるんですって。」

サフラン 「……ね、ねぇ、
 アンジェ?
 なんだか怖そうな話だからやめない?」

アンジェリカ 「大丈夫大丈夫。あたしがついてるから☆」

サフラン 「いや……それ意味不明だよ?
 それになんでほっぺたのばすの?
 ふにゅうー。」

アンジェリカ 「それでねそれでね、
 曇りや新月の日に限ってぼそぼそとした話し声が
 どこからともなく聞こえてくるらしくて……」

サフラン 「う、うん……」

アンジェリカ 「昨夜もパパの知り合いが
 枯れ尾花の正体を暴こうと、
 中央公園の周りを一軒一軒探し回ってみたところ……」

サフラン 「う、うん……ごくり…」

アンジェリカ 「わーーーーっ!」

サフラン 「きゃあああああああっ!」

アンジェリカ 「って気がついたら朝になってて、
 何故か公園のベンチで寝てたんですって。
 後頭部に痛みが残ってたらしいけど。」

ウィノナ 「……黙って聞いてれば別に怖くない話じゃない。
 単にその人が酔っ払ってて転んだとか
 そういうオチなんでしょ。」

サフラン 「ふ、ふにゅう……ウィノはこういう話、怖くないの?」

ウィノナ 「んー、別に。そういうの慣れてるし。」

サフラン 「えっ。慣れてるって、えっ」

ウィノナ 「現実的に考えられるパターンとしては、
 勝手に誰かが忍び込んでるか、
 もしくは理力残像現象でしょ。」

サフラン 「り、りりょくざんぞうげんしょうって?」

ウィノナ 「生物が死んだ後にしばらく残存する魂の欠片のことよ」

アンジェリカ 「つまり幽霊ねっ☆」

サフラン 「ふにゅう……やっぱり怖い話だよぅ…」

フィル 「……そうか、規則性が見いだせないと思っていたら、
 闇夜の日を選んでいたのか……。
 うん、これは読めてきたぞ。」

アンジェリカ 「あら、フィル、いたの?いつの間に?」

フィル 「いや、俺さっきからずっといるんだけど……冒頭でも会話してたよね?」

アンジェリカ 「そういえばサフランちゃん、サフランちゃん」

サフラン 「え、な、なに?びくびく」

アンジェリカ 「今夜……新月なのよ…ね……?」

サフラン 「きゃああああああああっ!」

ウィノナ 「もう、アンジェっ!
 あんまりサフランを怖がらせないのっ!
 怯えて家に帰れなくなったらどうするの!」

アンジェリカ 「えー、そしたらもちろん泊まっていけばいいのよー☆
 もちろんあたしのベッドで一緒にね☆
 あ、セクシーなネグリジェも貸してあげるねー☆」

サフラン 「い、いや、ボクの家、ここの隣だし……自分で帰れる…よ?」

アンジェリカ 「大丈夫?おもらしとかしない?」

サフラン 「しっ、しないもんっ!アンジェのばかっ!」

アンジェリカ 「うふふふふ。
 サフランちゃん、かわいー☆
 遠慮しなくてもいいのよ?」

サフラン 「遠慮してないよー。
 ってどうしてボクのほっぺたのばすのー!?
 ふにゅうー。」


ゴトン ゴトゴトン

フィル 「ん?」

ウィノナ 「ねぇ、今、樽が動かなかった?」


ガタンっ

サフラン 「きゃああああああああっ!」

ラルフ 「おや、ここは……おお、酒場じゃったか。やれやれ。」

マスター 「ラルフさんいらっしゃい。ご注文は?」

ラルフ 「あー、すまん、マスター。
 今日はちょっと違うんじゃ。
 間違えてここに出てしもうた。」

サフラン 「ふにゅう、びっくりしたよぅ……」

フィル 「……何をどう間違えたら樽の中から出て来るんだ?」

ラルフ 「いや、中央公園付近を散歩しておったら、
 何人かに背後をつけられての。
 あわててゴミ箱に飛び込んだんじゃ。」

フィル 「いや、だからそれがどうして樽の中から……。」

ラルフ 「うむ。それがワシにもさっぱり。」

フィル 「……ん?
 中央公園付近?
 その場所、具体的にどの辺りで?」

ラルフ 「どこじゃったかのぅ。
 シルバニアのどこかなのは、
 間違いないんじゃがのぅ。」

フィル 「もうちょっと詳しく。」

ラルフ 「確かそこは地面の上じゃった。」

フィル 「いやそういう情報はいらない。」

ウィノナ 「まーたゴシップのネタ集め?」

フィル 「ああ、うん、まあそんなとこ。
 じゃあラルフ爺さん、質問をかえよう。
 どんなゴミ箱に飛び込んだんだ?側面の模様とかマークとか。」

ラルフ 「んー?
 ゴミ箱ゴミ箱……おお、確か、
 蓋に車輪のマークがついておったのぅ。」

フィル 「車輪の輻は何本だったか憶えてる?」

ラルフ 「うーん?確か12本だったような気がするんじゃが……」

フィル 「……メルセンヌ商会の付近の空き家か。
 わかった、ありがとう。
 マスター、お勘定!」

マスター 「あいよ。13リル」


スッ

サフラン 「フィルさん、なんだか顔が真面目だよ?」

ウィノナ 「さっきから大丈夫?熱でもあるの?」

フィル 「ああ。俺、この取材が終わったら、正体明かすんだ……。」

アンジェリカ 「え、自身の存在感が薄いのは実は幽霊だからってこと?」

フィル 「いや、ちがっ、えっ、待って?俺、死んでるの!?」

サフラン 「ふにゅう、また話がそこに戻っちゃうのー!?だめぇえええ」


そして、夜は更けていく……。


第六話 『急転せし日常』 おわり。



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