★ 第六話 『急転せし日常』 ★
「いらっしゃいませー…あ、サフランちゃん☆」
「やっほー」
「ねぇねぇ、サフランちゃん!
最新情報なんだけど、こんな噂知ってるー?
あちこちに現れはじめた幽霊屋敷の話。」
「え、ユ、ユーレイ……?」
「幽霊屋敷?もしかして中央公園近くの噂?」
「そうそう。」
「えっ……中央…公園……?今日、通ったよ…?」
「それがね、先の大戦の後
住人のいなくなったはずのいくつかの廃屋から
最近は夜になると話し声が聞こえてくるんですって。」
「……ね、ねぇ、
アンジェ?
なんだか怖そうな話だからやめない?」
「大丈夫大丈夫。あたしがついてるから☆」
「いや……それ意味不明だよ?
それになんでほっぺたのばすの?
ふにゅうー。」
「それでねそれでね、
曇りや新月の日に限ってぼそぼそとした話し声が
どこからともなく聞こえてくるらしくて……」
「う、うん……」
「昨夜もパパの知り合いが
枯れ尾花の正体を暴こうと、
中央公園の周りを一軒一軒探し回ってみたところ……」
「う、うん……ごくり…」
「わーーーーっ!」
「きゃあああああああっ!」
「って気がついたら朝になってて、
何故か公園のベンチで寝てたんですって。
後頭部に痛みが残ってたらしいけど。」
「……黙って聞いてれば別に怖くない話じゃない。
単にその人が酔っ払ってて転んだとか
そういうオチなんでしょ。」
「ふ、ふにゅう……ウィノはこういう話、怖くないの?」
「んー、別に。そういうの慣れてるし。」
「えっ。慣れてるって、えっ」
「現実的に考えられるパターンとしては、
勝手に誰かが忍び込んでるか、
もしくは理力残像現象でしょ。」
「り、りりょくざんぞうげんしょうって?」
「生物が死んだ後にしばらく残存する魂の欠片のことよ」
「つまり幽霊ねっ☆」
「ふにゅう……やっぱり怖い話だよぅ…」
「……そうか、規則性が見いだせないと思っていたら、
闇夜の日を選んでいたのか……。
うん、これは読めてきたぞ。」
「あら、フィル、いたの?いつの間に?」
「いや、俺さっきからずっといるんだけど……冒頭でも会話してたよね?」
「そういえばサフランちゃん、サフランちゃん」
「え、な、なに?びくびく」
「今夜……新月なのよ…ね……?」
「きゃああああああああっ!」
「もう、アンジェっ!
あんまりサフランを怖がらせないのっ!
怯えて家に帰れなくなったらどうするの!」
「えー、そしたらもちろん泊まっていけばいいのよー☆
もちろんあたしのベッドで一緒にね☆
あ、セクシーなネグリジェも貸してあげるねー☆」
「い、いや、ボクの家、ここの隣だし……自分で帰れる…よ?」
「大丈夫?おもらしとかしない?」
「しっ、しないもんっ!アンジェのばかっ!」
「うふふふふ。
サフランちゃん、かわいー☆
遠慮しなくてもいいのよ?」
「遠慮してないよー。
ってどうしてボクのほっぺたのばすのー!?
ふにゅうー。」
「ん?」
「ねぇ、今、樽が動かなかった?」
「きゃああああああああっ!」
「おや、ここは……おお、酒場じゃったか。やれやれ。」
「ラルフさんいらっしゃい。ご注文は?」
「あー、すまん、マスター。
今日はちょっと違うんじゃ。
間違えてここに出てしもうた。」
「ふにゅう、びっくりしたよぅ……」
「……何をどう間違えたら樽の中から出て来るんだ?」
「いや、中央公園付近を散歩しておったら、
何人かに背後をつけられての。
あわててゴミ箱に飛び込んだんじゃ。」
「いや、だからそれがどうして樽の中から……。」
「うむ。それがワシにもさっぱり。」
「……ん?
中央公園付近?
その場所、具体的にどの辺りで?」
「どこじゃったかのぅ。
シルバニアのどこかなのは、
間違いないんじゃがのぅ。」
「もうちょっと詳しく。」
「確かそこは地面の上じゃった。」
「いやそういう情報はいらない。」
「まーたゴシップのネタ集め?」
「ああ、うん、まあそんなとこ。
じゃあラルフ爺さん、質問をかえよう。
どんなゴミ箱に飛び込んだんだ?側面の模様とかマークとか。」
「んー?
ゴミ箱ゴミ箱……おお、確か、
蓋に車輪のマークがついておったのぅ。」
「車輪の輻は何本だったか憶えてる?」
「うーん?確か12本だったような気がするんじゃが……」
「……メルセンヌ商会の付近の空き家か。
わかった、ありがとう。
マスター、お勘定!」
「あいよ。13リル」
「フィルさん、なんだか顔が真面目だよ?」
「さっきから大丈夫?熱でもあるの?」
「ああ。俺、この取材が終わったら、正体明かすんだ……。」
「え、自身の存在感が薄いのは実は幽霊だからってこと?」
「いや、ちがっ、えっ、待って?俺、死んでるの!?」
「ふにゅう、また話がそこに戻っちゃうのー!?だめぇえええ」