4つ星の酒場


★ 第七話 『あるいは非日常』 ★


からんころん

アンジェリカ 「お客さん、ごめんなさーい。
 今日は臨時休業で……
 あ、サフランちゃん☆ きゃー☆」

サフラン 「やっほー」

アンジェリカ 「……あら?
 その後ろにいる男の子は、
 たしかパン屋さんのところの……」

デニス 「こ、こんばんは……。」

サフラン 「うん、ちょっと色々あってね、
 お姉ちゃんに言われてしばらく
 一緒に居ることになったんだけど……」

アンジェリカ 「ガーン。
 サフランちゃんが年下の彼氏を作ったうえに
 同棲をはじめちゃった……もうダメ……」

サフラン 「まって、そういう意味じゃないよ!」

デニス 「かかか、彼氏じゃないです!」

アンジェリカ 「そうよね、まだ幼すぎるもんねー。
 ……いままでサフランちゃん一筋だったけど、
 おねショタなら箱推しというのも有りかも……」

デニス 「え、オネ……箱推しってなに?」

アンジェリカ 「ううん、なんでもない☆
 それでどうしたの、
 いまあんまり外に出ないほうがよさそうよ?」

サフラン 「それは分かってるんだ、
 でもずーっと待ってたら、ふたりともお腹が空いちゃって。
 それで、残っていた食材で何か作ろうとしたんだけど……」

デニス 「ごめんなさい、僕が卵を全部落としちゃ割っちゃって……。
 うわーん、やっぱりキャベツ畑で生まれたんだ。
 コンドルの目玉焼きはやだよぅ」

アンジェリカ 「コンドルの目玉焼きってコリコリしてそうなイメージがあるわねー」

サフラン 「……それは目玉の意味がちょっと違うような……。
 そう、それでパパとママに相談しようと思ったんだけど、
 まだ寝室から出てこなくて……その……」

アンジェリカ 「あー、それでうちに来てみたのね。」

サフラン 「うん。お隣さんだし、何か食材余らせてないかなって」

アンジェリカ 「じゃあ今日はあたしが腕によりを振るっちゃう☆」

デニス 「わーい、お昼抜きだったから楽しみー!」

サフラン 「……え、アンジェが、作る、の?」

アンジェリカ 「え、サフランちゃんどうしたの、
 嬉しさのあまり怪訝な顔になっちゃった?
 たーっぷり愛情込めるから安心してね☆」

サフラン 「……アンジェ、包丁の持ち方、わかる?」

デニス 「えっ」

アンジェリカ 「まっかしてー!
 刃物なんてちょちょいのちょいよ!
 こうしてこう持って……」


ヒュッ


スコン

デニス 「ひっ!?」

サフラン 「やっぱり手にした刃物が飛んでいく癖、治ってないよね?」

アンジェリカ 「……てへっ☆」

デニス 「じゃ、じゃあみんなで一緒に作るっていうのはどうかな……?」

アンジェリカ 「大・天・才!
 なかなか見込みがありそうね、
 キミならサフランちゃんのお婿さんでも認めてあげるわっ!」

デニス 「お、お、お婿さんって」

アンジェリカ 「ほらほら、あっちはまんざらでもなさそうよ?
 サフランちゃん☆ ……あら?
 こっちまでほっぺた赤くしちゃって可愛いー☆」

サフラン 「ふにゅうー。アンジェのばかー!
 かなり年下の男の子なのに変に意識しちゃうじゃないかー!
 それより料理!料理作ろうよ!」

デニス 「おなかすいたー」

アンジェリカ 「よーし、まず食材を確認するわよー☆」


 ・・・・・・

アンジェリカ 「というわけで☆」

デニス 「わけで!」

アンジェリカ 「いまあるだけの食材を集めてみました☆」

サフラン 「……ねぇ、なんでロープとか
 サテンのリボンがあるの?
 これ食材じゃないよね?」

アンジェリカ 「サフランちゃんの盛り付けに必要かなって☆」

サフラン 「ボクは食材じゃないよ!?」

デニス 「え、どういう意味?」

サフラン 「知らなくていいの!」

アンジェリカ 「うふふ、大人になったらねー☆

デニス 「どきどき」

アンジェリカ 「ジャガイモ、タマネギ、牛肉、
 ニンジン、トマト、ベーコン……
 ここから作れるのは!」

デニス 「作れるのは!」

アンジェリカ 「チーズケーキね!」

サフラン 「まって、どこにもケーキ要素がないよ!?」

デニス 「ケーキって野菜とお肉で作れるんだ……」

サフラン 「できないできない」

アンジェリカ 「チーズは色々種類が揃ってるけど、ブルーチーズでいいのかしら?」

サフラン 「どうしてそれを選んだの!?」

アンジェリカ 「よくわかんなかったから適当に?」

サフラン 「わかった、ボクがマスカルポーネチーズをとってくるよ!
 確か、あっちの棚だったよね。
 ちょっとアンジェのこと見張っててねー」

デニス 「はーい!」

アンジェリカ 「……ねぇねぇ、サフランちゃんのことどう思う?」

デニス 「ど、どうって……すてきなおねえさんだとおもいます!」

アンジェリカ 「じゃあここでカッコイイところを見せてハートを射止めちゃおう☆」

デニス 「カッコイイところ……?」

アンジェリカ 「そう!高級食材を入れちゃうとか!」

サフラン 「……なにをコソコソ話してるの?」

アンジェリカ 「なんでもない☆
 これが完成すれば、きっとサフランちゃんの
 ほっぺた落ちること間違いなし!って話してたの☆」

デニス 「えっ」

サフラン 「なんか違うっていう声が聞こえた気がするんだけどー?」

アンジェリカ 「そうそう、
 ほっぺたといえば、
 牛の頬肉って美味しいのよねー。」


どぼん

サフラン 「まって、アンジェ!
 これチーズケーキ作ってるんだよね!?
 どうしてそれ入れちゃったの!?」

アンジェリカ 「美味しいものと美味しいものを
 掛け合わせれば、
 もっと美味しいものが出来ると思わない?」

サフラン 「わかった。アンジェって、
 包丁持たせないだけじゃなくて
 台所に立たせちゃいけないタイプだ!」

アンジェリカ 「何故かパパもあたしを台所に入れてくれないのよねー。
 そろそろウェイトレスだけじゃなくて、
 自分でお客さんに出す料理を作りたいのにねー」


どばー

サフラン 「アンジェ、こんどはなに入れたの?!」

アンジェリカ 「愛情?」

サフラン 「その袋にコショウって書いてあるよね???」

デニス 「……くしゅんっ」

アンジェリカ 「あっ思い出した!」

サフラン 「え、何を?」

アンジェリカ 「チーズケーキって甘いんだった!」


とろーり

サフラン 「だからってバニラエッセンスをひと瓶全部入れないでー!?」


 ・・・・・・

アンジェリカ 「祝・完・成☆」

デニス 「わーい!」

サフラン 「……ねぇ、この黒い固まり、なに?」

アンジェリカ 「天然危険物?」

サフラン 「天然じゃないよね、人工物だよね!?
 チーズケーキ作ろうとしていたよね?
 どうして最後にイカスミ入れちゃったの!?」

アンジェリカ 「てへっ☆」

デニス 「これ、食べて……食べられるの?」

サフラン 「誰か、味見した?」

デニス 「ううん。」

アンジェリカ 「よしっ、ここは男の子として、
 試食でカッコイイところを見せちゃおう!
 どうぞ召し上がれっ☆」

デニス 「い、いただきまーす」

サフラン 「まってお腹壊すからだめぇえええ」


そして、夜は更けていく……。


第七話 『あるいは非日常』 おわり。



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