★ 第七話 『あるいは非日常』 ★
「お客さん、ごめんなさーい。
今日は臨時休業で……
あ、サフランちゃん☆ きゃー☆」
「やっほー」
「……あら?
その後ろにいる男の子は、
たしかパン屋さんのところの……」
「こ、こんばんは……。」
「うん、ちょっと色々あってね、
お姉ちゃんに言われてしばらく
一緒に居ることになったんだけど……」
「ガーン。
サフランちゃんが年下の彼氏を作ったうえに
同棲をはじめちゃった……もうダメ……」
「まって、そういう意味じゃないよ!」
「かかか、彼氏じゃないです!」
「そうよね、まだ幼すぎるもんねー。
……いままでサフランちゃん一筋だったけど、
おねショタなら箱推しというのも有りかも……」
「え、オネ……箱推しってなに?」
「ううん、なんでもない☆
それでどうしたの、
いまあんまり外に出ないほうがよさそうよ?」
「それは分かってるんだ、
でもずーっと待ってたら、ふたりともお腹が空いちゃって。
それで、残っていた食材で何か作ろうとしたんだけど……」
「ごめんなさい、僕が卵を全部落としちゃ割っちゃって……。
うわーん、やっぱりキャベツ畑で生まれたんだ。
コンドルの目玉焼きはやだよぅ」
「コンドルの目玉焼きってコリコリしてそうなイメージがあるわねー」
「……それは目玉の意味がちょっと違うような……。
そう、それでパパとママに相談しようと思ったんだけど、
まだ寝室から出てこなくて……その……」
「あー、それでうちに来てみたのね。」
「うん。お隣さんだし、何か食材余らせてないかなって」
「じゃあ今日はあたしが腕によりを振るっちゃう☆」
「わーい、お昼抜きだったから楽しみー!」
「……え、アンジェが、作る、の?」
「え、サフランちゃんどうしたの、
嬉しさのあまり怪訝な顔になっちゃった?
たーっぷり愛情込めるから安心してね☆」
「……アンジェ、包丁の持ち方、わかる?」
「えっ」
「まっかしてー!
刃物なんてちょちょいのちょいよ!
こうしてこう持って……」
「ひっ!?」
「やっぱり手にした刃物が飛んでいく癖、治ってないよね?」
「……てへっ☆」
「じゃ、じゃあみんなで一緒に作るっていうのはどうかな……?」
「大・天・才!
なかなか見込みがありそうね、
キミならサフランちゃんのお婿さんでも認めてあげるわっ!」
「お、お、お婿さんって」
「ほらほら、あっちはまんざらでもなさそうよ?
サフランちゃん☆ ……あら?
こっちまでほっぺた赤くしちゃって可愛いー☆」
「ふにゅうー。アンジェのばかー!
かなり年下の男の子なのに変に意識しちゃうじゃないかー!
それより料理!料理作ろうよ!」
「おなかすいたー」
「よーし、まず食材を確認するわよー☆」
「というわけで☆」
「わけで!」
「いまあるだけの食材を集めてみました☆」
「……ねぇ、なんでロープとか
サテンのリボンがあるの?
これ食材じゃないよね?」
「サフランちゃんの盛り付けに必要かなって☆」
「ボクは食材じゃないよ!?」
「え、どういう意味?」
「知らなくていいの!」
「うふふ、大人になったらねー☆
「どきどき」
「ジャガイモ、タマネギ、牛肉、
ニンジン、トマト、ベーコン……
ここから作れるのは!」
「作れるのは!」
「チーズケーキね!」
「まって、どこにもケーキ要素がないよ!?」
「ケーキって野菜とお肉で作れるんだ……」
「できないできない」
「チーズは色々種類が揃ってるけど、ブルーチーズでいいのかしら?」
「どうしてそれを選んだの!?」
「よくわかんなかったから適当に?」
「わかった、ボクがマスカルポーネチーズをとってくるよ!
確か、あっちの棚だったよね。
ちょっとアンジェのこと見張っててねー」
「はーい!」
「……ねぇねぇ、サフランちゃんのことどう思う?」
「ど、どうって……すてきなおねえさんだとおもいます!」
「じゃあここでカッコイイところを見せてハートを射止めちゃおう☆」
「カッコイイところ……?」
「そう!高級食材を入れちゃうとか!」
「……なにをコソコソ話してるの?」
「なんでもない☆
これが完成すれば、きっとサフランちゃんの
ほっぺた落ちること間違いなし!って話してたの☆」
「えっ」
「なんか違うっていう声が聞こえた気がするんだけどー?」
「そうそう、
ほっぺたといえば、
牛の頬肉って美味しいのよねー。」
「まって、アンジェ!
これチーズケーキ作ってるんだよね!?
どうしてそれ入れちゃったの!?」
「美味しいものと美味しいものを
掛け合わせれば、
もっと美味しいものが出来ると思わない?」
「わかった。アンジェって、
包丁持たせないだけじゃなくて
台所に立たせちゃいけないタイプだ!」
「何故かパパもあたしを台所に入れてくれないのよねー。
そろそろウェイトレスだけじゃなくて、
自分でお客さんに出す料理を作りたいのにねー」
「アンジェ、こんどはなに入れたの?!」
「愛情?」
「その袋にコショウって書いてあるよね???」
「……くしゅんっ」
「あっ思い出した!」
「え、何を?」
「チーズケーキって甘いんだった!」
「だからってバニラエッセンスをひと瓶全部入れないでー!?」
「祝・完・成☆」
「わーい!」
「……ねぇ、この黒い固まり、なに?」
「天然危険物?」
「天然じゃないよね、人工物だよね!?
チーズケーキ作ろうとしていたよね?
どうして最後にイカスミ入れちゃったの!?」
「てへっ☆」
「これ、食べて……食べられるの?」
「誰か、味見した?」
「ううん。」
「よしっ、ここは男の子として、
試食でカッコイイところを見せちゃおう!
どうぞ召し上がれっ☆」
「い、いただきまーす」
「まってお腹壊すからだめぇえええ」