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■ いつの日か陽の下で 第三話 ■



「やっほー、こっちこっちー。」
場違いなほど脳天気で甲高い声が洞窟内に木魂する。暗闇の向こうにだぶだぶの赤い弔い衣装を身につけた少女――ムナックが両手をぶんぶんと振り回しながら笑っている。
今日は約束のピクニック。もっとも空を見上げても見えるのは岩の天井だけで、陽の光は一筋たりとも見つけることはできないが。
「えへへ、ちゃんとお弁当作ってきたんだよ?」
そう言いながらムナックは後ろ腰にぶら下げた携帯袋から、小さな重箱を取り出す。あちこちの漆が禿げているのはご愛敬。
「ね、開けてみて? この洞窟にある材料で一所懸命つくったんだよ?」
ボンゴンは促されるままに蓋を開けてみる。中から出てきたのはコウモリの牙、お化け卵(エギラ)の殻、ヒドラの触手――と思われるなんだかどろっと溶けたもの。あとは何やら青く染まった人骨。どこから拾ってきたのやら。
「死んでるから食べることなんかできないけど、こういうのも雰囲気には必要かなーって。」
確かに食べることはできなそうだ。ここに来てからというもの、何かを食べた記憶はない。そして空腹を感じたことも。
だがそれ以前にこの料理は、例え生きていたとしても、別の意味で食べることはできなそうだ。
「ごめんね、こんな材料しかなくて……。」
期待に添えなかったかしら、と不安げに眉をひそめながらおずおずとボンゴンの顔をのぞき込む。
「ううん、ありがとう。気持ちだけでも嬉しいよ。」
「ん――ありがとう。」
お世辞でもなんでもなかった。ボンゴンにとってはこんな闇の世界で、孤独な自分のために何かを作ってくれたムナックがとても愛しかった。それが例え食べること能わぬものだとしても。
「それとね、ボンちゃん。もうひとつプレゼントがあるの。」
「うん?」
なんだろう。今度はべと液のジュースだろうか。ボンゴンは弁当の例を引き合いに出して、本当にそんなことを考えていた。
「よろこんでくれるかな……?」
幸いなことに、その予測は外れた。
おずおずと彼女がポケットから取り出したのは、ムナック自身の姿を模した手作りの人形であった。作りはお世辞にも上手とは言えないかもしれない。けれど丹誠込めて作られていることだけは、丁寧な縫い目からしっかりと伝わってくる。
「すごいね、自分で作ったの?」
「うん。えへへー。」
「……ありがとう。」
どうしよう、とても嬉しい。冷たいはずの頬が緩んでいるのが自分でもわかる。生きている間にプレゼントなんて数えるほどしかもらった記憶がない。けど、この小さな人形は生前を含めても一番嬉しい贈り物であったに違いない。
どこに飾っておこうか。自分の持ち物なんて、数えるほどしかない。この衣装と、あとは――ボンゴンはふと思い出した。自分が死んだ時、葬儀品として持たされた儀礼剣があったことを。そうだ、あの剣の柄に付けよう。
もう一度「ありがとう」と感謝の気持ちを伝えようとしてムナックの方を向いた瞬間、

ちゅっ

彼女の冷たい唇がわずかに、ボンゴンの白い頬に触れる。思っていたよりも二人の距離は近かった。
「あ……。」
予想外の出来事に、どう反応していいか分からずボンゴンはただ口をぱくぱくとさせる。
間近で見るムナックの顔は、とても美しく大人びていた。
「えへへ……キスしちゃった。」
ムナックは少し名残惜しそうに呟きながらそっと唇を離すと、とたんに一転して少女の顔に戻り、「きゃー」と黄色い声を出しながら辺りを飛び跳ねはじめる。彼女なりの照れ隠しなのだろうか。どことなくあどけなさを残すその仕草がボンゴンにはかわいく思えて仕方がなかった。
しばらくボンゴンの回りをウサギのようにぴょんぴょんしていたが、少しして気分が落ち着いたのか、そのままちょこんとボンゴンの横に座る。
「ね、明日の予定は?」
予定? そんなものはなかった。死んでこれ以上僕に何をしろというのか。死は厳密な意味での終わりではなかった。その先にもまだ道は続いていた――もっともそれは一方通行の道であったが。自分自身の肉体と魂がそのことを体現しながらも、まだ心の奥底ではどこか今の自分という存在を信じ切れないでいた。
「ううん、特に。」
「えへへー。そっかー。じゃあさ、明日もピクニックしない?」
この娘はよほどピクニックが好きなのだろうか。それとももしかして自分のことが……いや、まさか。
目の前の一見脳天気そうな少女の気持ちにまだ確信が持てず、心の中でしばし葛藤する。けれど、断る理由なんかなかった。この少女と一緒にいたい。その気持ちに嘘偽りなどないのだから。
「うん。」
「やったー!」
天井に頭をぶつけるんじゃないかと思えるぐらいにぴょーんと力一杯に飛び跳ねるムナック。
「じゃあじゃあ、明日もお弁当作ってくるね!」
「あ……。」
満面の笑顔を目の前にして、いやお弁当は無理しなくていいよ、とは言えないボンゴンであった。

二人はいつしか、毎日を一緒に過ごすようになっていた。


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