『僕は、語らない』
「……だんだん風景が変わってきたな。
針葉樹林が少なくなって、だんだん広葉樹林が増えてきた。
北へ北へと、暖かい方へ進んでいる証拠だな。」
「そろそろ、地図が途切れる場所だよね。」
「ああ。確実に絶対生命緯度線へと近づいている。
まぁいくら調査隊といえども、
逃亡者でもいない限りその線を踏むことはないはずだから安全だけどな。」
「絶対生命緯度線、か……。」
「なぁ、エリック。こういう話を知っているか?」
「知らない。」
「……まだ何も言ってねぇよ。
俺達が今歩いているこの森林地帯、
昔は一面のサバナ(=木のまばらな草原地帯)だったっていう話だ。」
「こんなに生い茂っているのに?」
「ああ。
もっともそれはラファエル王国が出来る以前の伝説で、
何にも確証はないけどな。」
「……それは恐らく本当だ。」
「メンデル隊長。」
「地面を見ろ。ところどころに苔が生えていた跡があるだろう?」
「あ、はい。」
「苔というのは水分を保つ役目を果たす。
つまり苔の水分があれば土壌はわずかでも水で潤う。
まずそこから植物が生育する環境が生まれていくのだ。」
(なるほど。
でも隊長はどうしてそんなこと……?)
「あれ?隊長、前の方に何か建物と柵が……」
「検問所だ。」
「検問所?この先に国はないのに?」
「だから検問するんだ、逃亡者をこれ以上逃がさないために。
そしてあるいは人間をこれ以上北に行かせないために。
ただ唯一、北方調査隊の許可証を持つ者を除いては。」