『僕は、語らない』
「なぁ、いま南緯何度ぐらいだと思う?」
「う……ん……。
トンネルの中で空が見えないからわからないけど……。
隊長、いまどのあたりにいるんですか?」
「もうすぐ南緯38度を越えるところだ。」
「南緯38度……絶対生命緯度線っ!?」
「そうだ。もうすぐそれを越える。」
「隊長!
そんな命令は出ていねぇぞっっ!
任務もなく絶対生命緯度線を越えるなど……!」
「……隊長。
どこで道を間違ったんです!?
引き返しましょうよ。」
「間違ってなどいない。最初からそのつもりで行軍していたのだ。
……元々、この作戦自体が正規の命令によるものではなく、
私の独断によるものだからな。」
「!?
じゃあ……俺達は……軍に、帝国に反して
勝手な行動をしていることになるのかっ?!」
「勝手な行動とは心外だな、ライアン。
だが今回の作戦に関して
一切軍部から司令がてでいないのは事実だ。」
「隊長! 引き返しましょう!
きっと今なら間に合います!
今すぐにでも軍に戻らないと僕たちは国家反逆罪に……!」
「残念だがもはや手遅れだ。
いまごろ帝国は全力を挙げて我々を捜索しているだろう。
だがここまでくれば国家という枠組みさえも存在しない。」
「だが我々は帝国軍の……!」
「ライアン。この部隊は最早、カイザリア帝国所属の北方調査隊ではない。
ソース・オブ・ナレッジ……原始魔導協会。
たった今より協会の指揮下に入ることになる。」
「なん……だと?」
「隊長、もしかして貴方は最初から……。」
「……エリック、ライアン。
もはやここから自力で戻ることはできまい。
生きて帰りたくば、おとなしく私の命令に従え」
「エリック、どうする!?」
「僕にはわからない。
どうすればいいのか。
ただ、死にたくはないんだ。義姉さんのように……。」
「……エリック。」
「それとも、
今ここで二人とも無駄にあがいてここで命を落とすか?
……そうはしたくないだろう?」
「…………わかりました。」
(僕たちは……何に巻き込まれているんだろう。)