Forbidden Palace Library #00 「失われた7枚」シリーズ 外伝

『僕は、語らない』



ライアン 「ごほっ……エリック。
 大陸中に伝えるんだ、この真実を。
 あの男の存在を!」

エリック 「……できない。」

ライアン 「…………!」

エリック 「僕には……今の僕には生きるだけで精一杯なんだ。
 真実を口にすれば、僕は必ず殺される。
 まだ、死にたくない……。」

ライアン 「エリック……。」

エリック 「わがままかもしれないけど、僕は死が怖い。
 6年前、義姉が亡くなったのをこの目で目撃してしまったから。
 僕は、僕は死にたくない!殺されたくなんかないんだ!」

ライアン 「……別にお前をせめる気はないさ。
 確実な死と直面するその恐怖、
 今の俺にはわからないでもないからな……。」

エリック 「ん……だから……僕には、語れない。」

ライアン 「そうか……仕方ないな……。」

エリック 「……だから、
 真実を語らない僕は、
 エリック=ハミルトンはここで死んだんだ。」

ライアン 「……?」

エリック 「たった今から僕の名は、マルス=アインシュタイン。」

ライアン 「!?」

エリック 「僕は真実を語らない。
 その代わり、僕はこの名前を名乗る。
 この名前に秘められた真実に誰かが気づく、その日までずっと。」

ライアン 「まさか……お前……。」

エリック 「ん……この新しい名前を、マルスという名を大陸中に広めてみせる。
 そうすれば、誰か一人ぐらいは気づいてくれるはず。
 向こうが勝手に気づいてくれれば、僕は殺されることはない……。」

ライアン 「だが、どうやって広めるんだ……?」

エリック 「策がある。とっておきの奇抜な策が。
 さっきの連鎖爆発を免れた、わずかばかりの火薬と、
 僕たちが知ってしまった禁忌の知識で。」

ライアン 「……わかった。
 後は任せたぜ、マルス。
 ……俺は……もう……意識が…………。」

エリック 「……!?ライアンっ!?」

ライアン 「………………………。」

エリック 「ライアン!ライアン!」

ライアン ………………。

エリック 「ライ……アン……。」

ライアン ………………。

エリック 「わかった。
 安らかに眠ってくれ、ライアン……。
 後は僕に任せて。」

エリック (そう……僕にできることはただひとつ。)




▽そして。



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