『僕は、語らない』
「ごほっ……エリック。
大陸中に伝えるんだ、この真実を。
あの男の存在を!」
「……できない。」
「…………!」
「僕には……今の僕には生きるだけで精一杯なんだ。
真実を口にすれば、僕は必ず殺される。
まだ、死にたくない……。」
「エリック……。」
「わがままかもしれないけど、僕は死が怖い。
6年前、義姉が亡くなったのをこの目で目撃してしまったから。
僕は、僕は死にたくない!殺されたくなんかないんだ!」
「……別にお前をせめる気はないさ。
確実な死と直面するその恐怖、
今の俺にはわからないでもないからな……。」
「ん……だから……僕には、語れない。」
「そうか……仕方ないな……。」
「……だから、
真実を語らない僕は、
エリック=ハミルトンはここで死んだんだ。」
「……?」
「たった今から僕の名は、マルス=アインシュタイン。」
「!?」
「僕は真実を語らない。
その代わり、僕はこの名前を名乗る。
この名前に秘められた真実に誰かが気づく、その日までずっと。」
「まさか……お前……。」
「ん……この新しい名前を、マルスという名を大陸中に広めてみせる。
そうすれば、誰か一人ぐらいは気づいてくれるはず。
向こうが勝手に気づいてくれれば、僕は殺されることはない……。」
「だが、どうやって広めるんだ……?」
「策がある。とっておきの奇抜な策が。
さっきの連鎖爆発を免れた、わずかばかりの火薬と、
僕たちが知ってしまった禁忌の知識で。」
「……わかった。
後は任せたぜ、マルス。
……俺は……もう……意識が…………。」
「……!?ライアンっ!?」
「………………………。」
「ライアン!ライアン!」
………………。
「ライ……アン……。」
………………。
「わかった。
安らかに眠ってくれ、ライアン……。
後は僕に任せて。」
(そう……僕にできることはただひとつ。)