『僕は、負けない』
「サード君はね、絶対負けない子なのよ。」
「うん、なにが?
このお弁当の鶏肉さんに?
それともブロッコリーに?」
「ううん、じゃなくてお姉さんの話。
サード君には、もっと勇気があるはずなのよ。
そんなのへっちゃらってぐらいにならなきゃ。」
「でもさ、ファースト姉さんにはやっぱり逆らえないよ。
だって怖いもん。ほら。もしもさ機嫌損ねてパンの中に
また胡桃を殻ごと入れられたりとか。ああどうしよう。」
「え、殻ごと?」
「うん。今月に入ってからはもう3回も。」
「? なにしてるの?」
「うん、ファースト姉さん聞いてないよねって思って。
聞かれたらきっとまた雷が落ちるんだ。
もうね、目がつり上がって凄い形相でさ、」
「くすっ。
ここは学校よ?
ここまでお姉さんが来るわけないでしょ?」
「でもファースト姉さん凄い耳してるんだよ。
僕が100メートル先で悪口言ってても走って追いかけてきて
こう耳を引っ張ってああもう思い出しただけで痛い。」
「くすっ。」
「え、なになに? なんか僕おかしなこと言った?」
「ううん。サード君って面白いなぁって思って。」
「え、僕なんかちっとも面白くないよ。
セカンド兄さんの方がいつもにこにこしてて、
何も面白いことなくてもにこにこってあれ何の話だっけ?」
「ん、何の話かしらね?」
「そういやずるいんだよセカンド兄さん。
僕には胡桃の殻入りパンが出てきたときでも、
どういうわけか殻の入ってない胡桃パンばかり選ぶんだ。」
「そんなに胡桃パンが好きなの?」
「ううん。
胡桃パンには固い殻の嫌な思い出ばかりだから、
何も入ってないうんと柔らかいパンが一番好き。」
「ん……じゃあ、わたしがパン焼いてあげるねっ。」
「え? フィオナちゃんが?」
「あ、なぁに、その疑るような目は?
信じてないでしょー。
こう見えてもちゃんと特訓してるんだからっ。」
「ん?パン屋さんにでもなるの?」
「ぶーっ。
残念でした、違いまーす。
――将来お嫁さんになったときのために、です。」
「あ、そうなんだ。
それで、
誰のお嫁さんになるの?」
「…………馬鹿。」
「え、なに?なんで怒ってるのさ?」
「もうパン作って持ってってあげないもん!」
「えーっ!?」
「……くすっ。
嘘よ、サード君。
じゃあ学校終わったら準備して、夕飯時に持っていくわね。」
「あ、うん。ありがとう。」
「あ、お昼休みが終わっちゃう!
じゃ、放課後パン焼いて持っていくからね。
またあとでね、サード君♪」
「うん、あとでねー。」
「……フィオナちゃんのパンかー。
わくわく。
あ、午後の授業に遅刻するっ!」