Forbidden Palace Library #00 「失われた7枚」シリーズ 外伝

『僕は、負けない』



サード 「フィオナ……。」


…………。


サード 「フィオナ……ごめんね。
 ――僕の力が足りなくて、
 守ってあげられなくて……。」


…………。


ファースト 「この子、
 傷ついてからもずっと、
 胸にこの紙袋を抱えていたわ。」

サード 「紙袋?」


ぱさっ


サード 「――まだ、あったかい。」


がさっ


サード 「!
 焼きたての、パンだ……。
 フィオナ、僕のために……。」

ファースト 「…………食べて、あげなよ。」

サード 「うん……。」


はむっ


サード 「……おいしい。
 柔らかくて、ふんわりしてて。
 口の中に香ばしさが広がる。」

ファースト 「きっと、あんたの事を想いながら作ってたんだろうね。」

サード 「……フィオナ、
 守ってあげられなくてごめんね。
 ごめんね、ごめんね……。」

セカンド 「――優しさは、自分を臆病にして傷つけるかもしれない。
 だけど、時として人を守るためには
 誰にも負けない武器になるはずだ。」

サード 「セカンド兄さん……。」

セカンド 「その胸の痛みを忘れるな。
 人は傷を抱えれば抱えるほど優しくなれる。
 そしてその分だけ、本当の強さを身につけることができる。」

ファースト 「セカンド、もう一人の男は?」

セカンド 「逃げたよ。
 だけど、もう二度と来ることはできないだろう。
 もうすぐここに騎士団が現場検証に来るはずだ。」

ファースト 「パパは?」

セカンド 「連絡した。急いで戻ってくるそうだ。
 騎士団も街中を捜索を開始したみたいだ。
 ヒューバートが捕まるのも恐らく時間の問題だと思う。」

ファースト 「そう……。」

サード 「…………。」

セカンド 「…………。」

サード 「……ファースト姉さん、セカンド兄さん。」

ファースト 「ん?」

セカンド 「なんだ?」

サード 「……僕、騎士になるよ。」

セカンド 「え?」

サード 「強くなって、
 大切な人みんなを守るんだ。
 ――僕は、負けない。」

ファースト 「サード……。」

サード 「ファースト姉さん。
 だけどその前にひとつだけ、
 お願いがあるんだ。」

ファースト 「なに?」

サード 「僕に――パンの焼き方を教えてくれない?
 この柔らかい、フィオナの作ってくれたパンと
 同じのがいつでも作れるように。」

ファースト 「いいわよ。
 ただし、あたしの教え方はキツイわよ?
 間違えたら容赦しないからね。」

サード 「うん。
 それでもいい。
 もう、僕は負けないから――。」

ファースト 「よく言った。その心意気だよ!」

サード 「……うん。」




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