『僕は、負けない』
「フィオナ……。」
「フィオナ……ごめんね。
――僕の力が足りなくて、
守ってあげられなくて……。」
「この子、
傷ついてからもずっと、
胸にこの紙袋を抱えていたわ。」
「紙袋?」
「――まだ、あったかい。」
「!
焼きたての、パンだ……。
フィオナ、僕のために……。」
「…………食べて、あげなよ。」
「うん……。」
「……おいしい。
柔らかくて、ふんわりしてて。
口の中に香ばしさが広がる。」
「きっと、あんたの事を想いながら作ってたんだろうね。」
「……フィオナ、
守ってあげられなくてごめんね。
ごめんね、ごめんね……。」
「――優しさは、自分を臆病にして傷つけるかもしれない。
だけど、時として人を守るためには
誰にも負けない武器になるはずだ。」
「セカンド兄さん……。」
「その胸の痛みを忘れるな。
人は傷を抱えれば抱えるほど優しくなれる。
そしてその分だけ、本当の強さを身につけることができる。」
「セカンド、もう一人の男は?」
「逃げたよ。
だけど、もう二度と来ることはできないだろう。
もうすぐここに騎士団が現場検証に来るはずだ。」
「パパは?」
「連絡した。急いで戻ってくるそうだ。
騎士団も街中を捜索を開始したみたいだ。
ヒューバートが捕まるのも恐らく時間の問題だと思う。」
「そう……。」
「…………。」
「…………。」
「……ファースト姉さん、セカンド兄さん。」
「ん?」
「なんだ?」
「……僕、騎士になるよ。」
「え?」
「強くなって、
大切な人みんなを守るんだ。
――僕は、負けない。」
「サード……。」
「ファースト姉さん。
だけどその前にひとつだけ、
お願いがあるんだ。」
「なに?」
「僕に――パンの焼き方を教えてくれない?
この柔らかい、フィオナの作ってくれたパンと
同じのがいつでも作れるように。」
「いいわよ。
ただし、あたしの教え方はキツイわよ?
間違えたら容赦しないからね。」
「うん。
それでもいい。
もう、僕は負けないから――。」
「よく言った。その心意気だよ!」
「……うん。」