『鐘の音を合図に』
「様子はどうなってる?」
「依然として奴らは廃屋の中に閉じこもっているみたいだな。
……扉は表通りに一つ、そして裏に勝手口が一つ。
両隣は普通の民家だから扉はない。」
「中の状況はわかりそうか?」
「おそらく、ベークランドが捕らえられている。」
「そのぐらい俺でもわかる。
そんなことを聞いているんじゃない。
中に何人ぐらい人がいるか分かるかって聞いているんだ。」
「そうならそうと先に言ってくれ。」
「おい、レオン、お前、分かっててわざと言ってないか?」
「ご名答。……バレたか。」
「ほぉ。そうかそうか。覚えてろ、あとで。」
「……いつもの余裕がないみたいだな、ボイス。
ま、やっぱり愛しの君が誘拐されたとあったら
余裕もなくなるか。」
「愛しの君?誰がだ?」
「……イーディス=ベークランドのことだよ。
好きなんだろ?
好きだからこそ冷たく接してしまうんだろ?違うか?」
「……なぜそうなるのだ?」
「素直じゃねえなあ。
自分の気持ちに素直になれよ、ボイス。
好きだからこそ自分の手で真っ先に助け出そうとしているんだろうが?」
「…………。」
「まあいい。その話は後だ。
で、中の人数を調べればいいんだな?
ちょっと待ってろ。気配を探ってみる。」
「6人、あるいは7人。10人はいない。気配はそんなところだ。」
「……いつものことながら、よくわかるな。大したものだ。」
「訓練のたまものさ。」
「やはり、かつて諜報活動に従事していただけはあるということか。」
「まあ、な。……それよりどうする、ボイス?
ここにいる各々数名の部下だけで乗り込むか?
それとも一度兵舎に戻って兵を増強してくるか?」
「後で罪に問われる人間は少ない方がいい。違うか?」
「違わねぇ。
だが、武装は?俺達も部下も含めて待機時のままだぞ。
もっともその間に上司に見つかったらパァだけどよ。」
「そんな時間はない。現状装備のままで行く。」
「…………。
お前は普段から大剣を携帯しているからいいけどよ、
俺は投げナイフしか持っていないんだぜ?」
「何本持ってる?」
「8本。」
「充分だ。部下に廃屋の周りを包囲させ、俺とお前で乗り込む。
奴らが総勢10名だったとして、半分は俺が倒す。
残り5人。3本のおつりが来るはずだ。」
「……お前さ、やっぱりさっきの事を根に持ってるだろ?」
「そうかそうか、8本で十分か。
いやいや、大した腕前だ。
すばらしいなぁ。ああすばらしい。」
「……すまんボイス、俺が悪かった。
それで、どうやって乗り込む?
正攻法で行くか?それとも裏から奇襲をかけるのか?」
「俺が表から、お前が裏から乗り込む。異存は?」
「ないね。切り込みの合図は?」
「……5分後、正午の鐘が鳴った瞬間だ。」