『鐘の音を響かせ』
「親父っ!!」
「……おお、ボイスか?どうした?息を切らせて?」
「親父、俺は誰なんだ?」
「???
何を言っている?
お前はボイスじゃないか。」
「違う。教えてくれ、本当の俺は誰なんだ!?」
「…………ボイス?」
「俺には、俺の知らない過去がある。
俺が幼少を過ごしたはずのブランドブレイのことも、
大量虐殺を起こしたことになってるエルメキアの記憶も!」
「…………。」
「それどころかきちんとした幼少の頃の記憶すらない!
俺の持っている記憶は俺の戸籍と一致しない!
俺は、俺は誰なんだ!?答えてくれ、親父っ!!!」
「お前のその髪の色は、間違いなくわしの息子だ。
ハーシェル家の血を引き、わしの妻との間に生まれた。
それがお前だよ。」
「そんな理由じゃ納得できない!
どうして俺には俺の知らない過去があるんだ!?
俺は、誰なんだ!?」
「…………説得力に、欠けるか。
この時が来てしまったようだな。
いつか気づくときは来ると思っていたが……。」
「……どういうことだ?」
「ボイスという人間は、戸籍ではハーシェル家の長男となっている。」
「…………。」
「だが、お前は長男ではない。
本当のお前は長男ボイスの後に生まれた、
ハーシェル家の次男なのだ。」
「……次男?
ちょっと待て、どういうことだ!?
じゃあ、長男は!?」
「…………。」
「答えろ、親父!!!」
「………………ラウド [Loud]。」
「え?」
「ラウド=ハーシェル。
ハーシェル家の次男。
それがお前の本当の名前だ。」
「!?」
「本当のボイス=ハーシェル、ハーシェル家の長男は、
シュレディンガー家の道場を出奔して以来絶縁状態だ。
最近またブランドブレイに戻ったという情報もあるが……定かではない。」
「!!!」
「ラウド……すまない。」
「親父、じゃあ――俺の戸籍は……?」
「――お前は10年前に、死んだことになっている。」
「!!!
そんな……。
でも、俺はここに生きてるぞ!!」
「だが戸籍上は病死ということで処理されている。
死因が失踪ならともかく、
病死でいまさら死亡を取り消すことはできない。」
「……親父。その病死とやらも、
もしかしてハーシェル家の名誉のために
でっちあげられたのか……?」
「そうだ。まさかこんな事になるとは……すまない。
ラウド=ハーシェルはもう、
二度と地上に存在しないはずの人間なのだよ……。」
「そ……んな…………。」