『失われた7枚』if 〜昔話編 その3〜
あ、サードさん、サードさん。
「何か?」
いえ、今回は私も出演したいのでナレーター代わっていただけません?
「もちろん喜んで。
ああ、こんな幸運がいままであり得ただろうか。
いや、ない。反語。」
は、反語っていちいち言わなくても……。
……大丈夫かなあ、本当にこの人で。
遙か昔の北半球、そう、あれはまだシリウスと呼ばれる星がほのかな赤さを残していた時代の物語。
民間伝承として伝えられてきたこの物語をグリム童話として世に広めたのは神聖ローマ帝国のヘッセンに生まれたJacob Ludwig Carl Grimm(1785-1863)とWilhelm Carl Grimm(1786-1859)の兄弟で……
「そんなことはどうでもいいから早く始めろよ。」
どうでもよくないが了解。
昔々、とある家にシンデレラという娘がいました。
……なんか昔話で娘って言うといかにもこれから不幸に会いますよ、といわんばかりだよね。
いわんばかりって言えばイワンの馬鹿を連想しちゃうんだよなあ。やっぱり川岸とかで夕日に向かって叫んだ……いやまてよ、ばかりというからには物の程度を図る秤の事かもしれない。
「いいから早く始めろってば。」
気になるけど了解。
シンデレラが小さかった頃、彼女は自分の実の母親を亡くした。
ああ、だが幼いシンデレラは死という概念をまだ知らない。彼女はやがてその死という概念を覚えたとき、どうするのであろうか。無力だった自分を恨むのであろうか。
何故、何故あの時私は声の一つもかけてやれなかったのかと。
あの時、もっと私に力があれば……力があれば!
そう、それが例え自然の摂理に反することであっても、もう一度母親に会いたい!
そう考えた彼女は、ふと昔聞いたうわさ話を思い出した。
どこか異邦の地、それはもしかしたら別の世界を意味するのかもしれないが、どこかに人にとってのありとあやゆる種類の禁断の知識が集められている城があると。
その城から知識の断片を持ち出し、その後の人生に成功した者もいた。だがそれはほんの一握りの人々だけであった。大半の人々は知識におぼれ、そして人として廃れたという。
その由来からある時は悲しみの宮殿と呼ばれ、そしてまたある時は……
「ダメ。話が違う方向に進んでる。」
「秘書、やはりお前がナレーションをやれ。命令だ。」
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