『失われた7枚』 〜大江戸if 悪代官編〜
「……で、本来は。」
「本来は?」
「ここで女性の着物の帯でも持って
『あーれーご無体なー』と
やらなければならないわけなのだ。」
「それは悪代官でしょ?]
「いや、辞書には商人の役目だと書いてある。」
「辞書?一体どこの辞書によ?」
「もちろん俺の辞書にきまってるだろうが。はっはっは。」
「………………。」
「というわけでエリーゼ。」
「な、なによその手は?」
「…………。」
「ち、ちょっと、私が手に持っている物がなにかわかってる?」
「日本刀? なんでそんなもの持ってるんだ?」
「馬鹿な真似したら斬るわよ?覚悟しておいてね。」
「……俺は馬鹿なまねなんかしているつもりはない。」
「え?」
「真剣に、お前のことだけを考えているにすぎないんだ。」
「そ……そんな真摯な瞳で言われたら……どうしていいか……」
「というわけで、帯ひっぱっていいか?」
「斬りぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!」
「ぐはぁっ、痛ぇぇぇぇぇ……」
「峰打ちよ、安心して。」
「……いてててて……起きあがるから手を貸してくれ。」
「んもぅ。はい。
……って、ちょっと、ロウクス君?
なにどさくさに紛れて人の着物の帯に手をかけているのよ?」
「いや、引っ張ろうかと。」
「もう一回斬られたいの?」
「……エリーゼ……。」
「だから……そんな甘い口調で口説き落とそうとしたって……」
「本当は、イヤじゃないくせに……」
「そ、そんな……だめ……抵抗……できな……い……」
「というわけで、引っ張るぞ?」
「き、斬りぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!」
「ぐはぁぁぁっ!」
「んもう。いっつも強引なんだから……」
「よし、わかった。」
「本当にわかったの?」
「帯を引っ張るのはあきらめて、帯を緩めて床に落とすことに……」
「斬りっ! 斬りぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」
「はぅっ。ぱたり」
「んもぅっ。」
「御用御用!」
「越前屋アシスト!
将軍様のみるくくっきーを盗んだ罰で……ってあれ?
なんか勝手に倒れてるんだけど?」
「左様か左様か。これにて一件落着。」
「で、どうかしたの?」
「いや、将軍様のみるくくっきーをこいつが持っていったって聞いて……」
「そうねぇ……きっとアーク代官様のところに持っていったんじゃないかしら?」
「左様か左様か。ではこれにて失礼。」
「……なんか……労せずして在処がわかったっていうか……。」
「ところでアシスト殿はなにゆえ倒れているのでござるか?」
「いや、エリーゼの帯を……」
「斬りっ! 斬りっ! 斬りぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」