「あっ……いたっ……ちょっとー、そんなきつく縛らないでよっ!」
「そうでしてよ!
わたくしにそのような趣味はなくってよ。
どちらかと言えばむしろ縛る方が……。」
「っだぁぁぁぁっ!
誤解されるようなことを言うなぁぁぁぁっ!
単に両腕を括り付けてるだけだろうがぁぁぁっ!」
「でも、確かに手つきが慣れているよな。
……もしやとは思っていたんだが、
ひょっとしてそういう趣味……なのか?」
「ってお前まで誤解するなぁぁぁぁぁっ!……ぜーはーぜーはー」
「……ま、まぁそういうことにしておこう。
しかし、まずいところを見られたものだ。
注意力が足りなかったか。」
「ったく。しかもこんな子供に、だ。」
「子供とは何よ。こう見えても花も恥じらう16歳……」
「うそつけ。どう見ても6歳程度だろうが。」
「……なんでばれたのかしら?」
「見ればわかるわい、そんなもの。」
「で、お嬢ちゃん、名前は?」
「ほほほほほ、人に名を聞くときは自分から先に名乗るべきではなくって?」
「そ、そうか。俺はスチュアート=ベル……」
「って馬鹿野郎っ!身分隠しているのに、自分から名乗る馬鹿がどこにいるっ!」
「そこに。」
「……確かに。」
「う、うるせえっ!
おい、お前ら。
ふざけた真似をするとただじゃすまないぜ?」
「ってことはふざけたことをするとお金が貰えるのかなぁ?」
「ほほほほほ、それはお得ですわねぇ。」
「そのタダじゃねぇぇぇぇぇっ!……ぜー、ぜー。」
「……お前さぁ、子供と口喧嘩して負けてどうするんだよ?」
「う、うるせぇっ!」
「で、お嬢ちゃん方、痛い目に遭いたくなければ名乗ってくれないかな?」
「ほほほほほ、誰が貴方なんかに……」
「そうよそうよ。」
「おい、何か殴るのに適当な木の棒でも持ってこい」
「あたしローラ。ローラ=セルシウス。年齢7歳。」
「あ、ローラ、姉のわたくしを差し置いて名乗るとはずるくってよ。
わたくしはオーロラ=セルシウス。
シェザのセルシウス家の長女として生まれ……」
「保身を選びやがったな、こいつら……」
「……だがどの道、会話を聞かれたからには、このまま帰すわけにもいくまい。」
「あー、詐欺ーっ!嘘つきーっ!人を騙したわねっ!」
「ってお前ら……」
「おい、我慢しろ。
所詮、子供の言うことだ。
今は任務が最優先だ。」
「確かに。俺達がカイザリア帝国から使わされた、隠密兵だということを知られては……」
「馬・鹿・野・郎っ!だから自分から身分を明かす奴が何処にいるっ!」
「そこに。」
「……確かに。」
「う、うるせぇうるせぇっ!」
「……もうお前は余計なことを喋るな。とにかくここは……」
「そこまでだっ!」
「と、扉が……真っ二つに!?」
「……馬鹿野郎、あの扉はもともと観音開きだ。」