『真実の抹消者(前編)』
「……つまり、
彼女はカイザリア帝国領にて、
多くの要人暗殺の前科があると。」
「ああ。まぁ殆どの連中は生前から
何かと恨まれていた輩ばかりだったが、
それでも法は法だ。捕らえないわけにはいかない。」
「ならば外交ルートで手配書を回せばよいだろう。
……それができないということは、
何か事情があるな。」
「!
べ、べつに事情はないぞ!
奴がレインエッジを持ち逃げしたなんてことは!」
「……レインエッジ?」
「む!どうしてその事を!?」
「今お前が言っただろ。」
「ぐぁああああ、しまったぁああああ!
なんという巧妙な誘導尋問。
俺ともあろう隠密兵がこうもやすやすと……。」
「いや別に誘導尋問も何もしてないんだが。
それで、レインエッジって何だ?
カイザリアの建国者、銀狼帝レインの事か?」
「……わかった、腹を括ろう。
その銀狼帝が有していた二本の透明な剣。
あの女はその片割れを有している。」
「それは元々どこにあったんだ?」
「言えぬ!
もともと我が家に伝わっていたものが、
やすやすと盗まれたなどとは言えぬ!」
「……そうか。だから隠密兵の名を借りて単独行動しているわけか。」
「ぎくっ! な、何故それを!?」
「いやだから、今お前が言っただろ。」
「俺の馬鹿ぁぁぁあああああ!」
「伝統の家宝が、という気持ちは分かる。
しかし、たかが剣の一本だろう。
主権侵害を犯してまですることか?」
「されど、あれは一本の剣なんだ!」
「……わかった、その件については後回しにしよう。
まず今回、侵入者が盗んでいったのは一枚の地図、
そして遺留品はこの手描きの見取り図だけか。」
「何が描いてあるんだ、その落とし物には?」
「王城への侵入ルートと、地下倉庫までの最短経路のようだな。
どうみても内部事情を知っている者が、
情報を与えているとして思えない。」
「しかし、なんだかやたらと上手い見取り図だな。
……ん?待てよ。
前にこれとよく似た画風の図面をどこかで……。」
「ん?」
「失礼します、シュレーディンガー家の被害状況が
まとまりましたので、ご報告に参りました……が、
後ほどのほうがよろしいでしょうか?」
「いや、ここで構わん。言ってくれ。」
「はい。
盗まれた物は、剣の一振り。
しかしグロリア殿はその詳細について口を濁しております。」
「うん、なんでだ?」
「わかりません。
ただ一言、その剣の名称が
『レインエッジ』と呼ばれる物であることを除いて。」
「!!!」
「!?」
「……あの女、これで二本とも手に入れたのかっ!!!」