『真実の抹消者(前編)』
「先手を取られたか。」
「おい、ジャンヌ!何故ここにいる!?」
「んっふっふー、理由ならそこの騎士団長さんが
何か心当たりありそうよ。
一発でここが分かったみたいだしぃ。」
「マティルダはどこへやった。
傷をつけてはいないだろうな。
万が一、傷害に及んでいようものなら、容赦はせぬぞ。」
「あら、こわいこわい。
大丈夫よ、ちゃんと留守の間を狙ったから。
だからあたし無暗に戦ったりはしないんだってば。」
「幾人もの要人を暗殺しつづけた前科があるだろう!」
「いい資金源になるのよねー。
依頼する方も結局ほとんどが要人級だから、
報酬たんまり入るし。」
「でも依頼では滅多に殺したりしないわ。
せいぜい再起不能にするぐらい。
支払いケチった依頼主には、容赦しないけどね。」
「! じゃあ今まで暗殺された要人ってのは――!」
「そっ、ほとんど元の依頼主。
報酬の支払いをケチって、返り討ちに遭わせようと
画策する守銭奴が多い多い。」
「――なるほど、道理でいままで暗殺されたのが、
悪評の多い輩ばかりだったわけだ。
その殆どが墓穴を掘っていたわけか。」
「ベル、済まないがカイザリアの事情は後にしてくれ。
……確か、ジャンヌと言ったな。
何が目的だ。何の為にここに来た。」
「んー、ペンダント型に加工された結晶体を探しに来たんだけど、
どこにもないのよねぇ。
真ん中にうっすら紋様の入った、透明なモノって聞いてたんだけど。」
「……それが何故ここにあると?」
「ん?だって15年前はこのお店にあったって聞いたから。」
「15年前?一体誰から聞いた?」
「んっふっふー?なーいしょっ。
でもこれだけ探してもないってことは、
もうここにはないみたいね。情報も古いし。」
(ん?ペンダント?)
「あ、そうそう。
騎士団長様、ひとつお願いがあるんだけどー。
聞いて貰ってもいいかな?」
「大人しく事情聴取を受ける準備があるなら、聞くだけは聞こう。」
「紫色の髪をしたナルシストっぽい魔導師がいたら、
『あたしたちは地下にいる』って
伝えて貰える?」
「……!!!」
「ナルシストっぽい魔導師ってどんなだよ?」
「んっふっふー、さぁ?
あたしもまだ会った事無いけど、
見ればわかるって言ってた。」
「誰が?」
「んっふっふー、なーいしょっ。」
「――何故知っている。」
「え?」
「おう?」
「何故、あの男の存在を知っている?」
「ふぅーん、てことはあなたも知ってるのね。
結構意外。
なら話は早いわ、そういうこと。」
「どういうことだよ、俺にはちっともわからん。」
「あたしはね、『真実』を抹消に来たのよ。」
「真実、だと?どういうことだ、説明してもらおう。」
「んっふっふー、おしゃべりはここまで。
引き留めてその間に援軍待とうったって無駄よ。
時間切れでしったー。」
「だが、壁を背にしている時点で逃げ道はないぞ。」
「んー、じゃあ作ればいいんじゃない?
せーの……っ!
蹴りぃぃっ!!!」
「!?」
「あ、でっかく穴開け過ぎちゃった。
まぁ通りやすくなったし?
んじゃっねー。」
「…………。」
「おい、待てっ!」
「……どうやったら木組みと漆喰の壁に、
蹴りの一撃でこれだけの大穴が
空くんだ?」