『真実の抹消者(前編)』
「おい、ここで待ってろって言ったきり姿を眩まして、
一体どこに行ってたんだ?
随分と時間掛かったな。」
「援軍を要請した。」
「援軍? おいおい、騎士団長なんだろ?
だったら自分の部下を使えばいいだろ。
なんでわざわざ余所の騎士団に……。」
「俺の指揮下にある5月騎士団は、
シスターズ市に駐留中だ。
王都にいるのは事務官ばかりで、実働部隊はここにいない。」
「必要な時に部下のいない騎士団長とは、随分ご立派な身分で。」
「残念ながら、その皮肉に反論できるだけの事実を持たない。
それ故に、2月騎士団に応援を要請してきた。
コペルニクス騎士団長に直々に。」
「そのコペル――ニクスとかいう騎士団長は信頼できるのか?」
「……人間性には些か難はあるが、力にはなってくれるかもしれない。」
「なんとも不安な答えをありがとよ。」
「俺の他に唯一、騎士団で事情を知ってる人間なんだ。」
「事情?」
「昔、色々あってな。」
「ふぅーん。紫色の髪のナルシスト男に追い回された、とか?」
「追い回された訳ではないが、まぁ似たような――ちょっと待て。」
「ん?」
「いつからそこにいた。」
「あっ、ジャンヌっ!!!」
「気付くの遅いわよ、アンタ。」
「どこから話を聞いていた。」
「シスターズ市がどうのって辺りから?
それより、なんかゴツイ鎧の人達がうろうろしてたけど、
警備でも厳しくしたの?」
「……その警備網の中でお前を見つけたのが、
俺たちが一番最初という時点で
騎士団の存在意義が疑われるな。」
「別に最初から騎士団と戦うつもりはないから、安心してネ☆」
「だったら素直にお縄を頂戴しろ!」
「カイザリアの下っ端が相手なら話は別よ。
ま、アタイ達の母体はもっと上位組織だから、
首脳部以外知らないのも無理はないんだけどねー。」
「……あたい『達』?上位組織?
つまり単独行動ではなく、
他に誰かがいるということか。」
「いっけなーい。口滑っちゃった。」
「一体、他に誰がいるんだ。」
「んー。そうねー、例えば生きてる中では――師匠とか?」
「師匠?」
「師匠はね、孤児だったアタイと妹を引き取って育ててくれたの。
……妹のロザリアは生まれつき身体が弱くて、
アタイみたいな修行できなかったけけどね。」
「その果てが暗殺者か。」
「これはアタイの恩返しよ。
師匠には現在生まれてくるずっと前から、
下されていた命令があったんだって。」
「生まれてくる前?……訳の分からない話だな。」
「んっふっふー、お喋りしすぎちゃったかな?
包囲される前に早いとこ向かわなきゃっ。
んじゃねっ!」
「おい、待てっ!!!」
「運河の方に逃げた、追うぞ!」
「おう!」