『真実の抹消者(前編)』
「確か、ジェイムス=エディソンだったか。
性懲りもなくこのような場所へ呼び寄せるとは。
油断に満ちたよほどの愚か者のようだな。」
「いや、油断などしていない。
できるはずもない。
ゆえに、この場所へとおびき寄せたのだ。」
「私の知る限り、この強敵と対峙して生き残ったのは
歴史上、レイン皇帝陛下ただひとり。
その後の暗殺者とてこの男の前に敗れた。」
「暗殺者?」
「――忘れたとは言わせんぞ。
バレンタイン港、新月の夜。
かつて貴方の命を狙った者がいたはずだ。」
「ああ。この私に刃向かおうとした、
あの愚か者のことか。
遠い昔の話すぎて忘れていたぞ。」
「――そうやって、今まで一体どれだけの人間を殺してきた!!!」
「ふっ。この大陸も人類も私がいなければ、
本来ならとうの昔に滅びていたのだ。
代わりに何百何千万の命を救ったのはこの私と魔導技術だ。敬え。」
「ふざけるな――!!!」
「大局を眺めることなく目先の情にのみ囚われる、
貴様の考えがいかに無謀で愚かしい事か、
もう一度、死の果てで悔やむがよい。」
「いや、あの時とは違う。今は2対1だ。」
「……ジャンヌ?」
「アタイはこの為に育てられてきた。それがアタイの宿命。
ごめんね、アーノルド。
アンタとの追いかけっこ、今までで一番楽しかった。」
「……なんでそんな悲愴な顔してんだよ。」
「現実が待っているの。
この先に未来があるかどうかもわからない現実が。
だから、とりあえずバイバイ――。」
「……馬鹿野郎。いや、馬鹿娘っ!」
「な、なによっ。」
「まだ、お前を捕まえちゃいないぞ!
生きたままカイザリアにしょっ引くのが、
俺の役目なんだ!」
「!」
「だから、お前を殺させはしない――。」
「……馬鹿っ。」
「ふっ。この期に及んで貴様に援軍が付くとは。」
「いいのか、アーノルド君。」
「ああ。それにレインエッジの片方は、
もともと俺の一族に伝わる家宝だ。
返してもらわねぇ事には、話も刃も鞘に収まらねぇ。」
「……ならば、この元の剣は君が使え。」
「え?」
「私には、脚部格闘術がある。対魔導用に編みだした技が。」
「使う為に盗んだんじゃないのか?それで、いいのか?」
「君が刃となってくれるのであれば、それで問題はない。」
「ふっ、まとめてかかってくるがいい。
雑魚が一匹増えた所で、私には痛くも痒くもない。
……それで、貴様はどうするのだ。」
「え。」
「そうだラグランジュ。
さっきからずっと黙っている貴様だ。
貴様に聞いている。」
「ラグランジュ。力を貸してくれないか。」
「命ずる。第十三の機構員として、原隊復帰せよ。」
「…………。」
「ラグランジュ!」
「貴様は、どうするのだ。
この言葉の意味、分かっているだろうな。
ラグランジュ。」
「……――俺は。」