『真実の抹消者(前編)』
「てめぇっ!なんてことを……!」
「やめておけ。勝ち目はないぞ。」
「ラグランジュ!」
「ふっ。もう一人の男の方は、あの天井の穴から吹き飛んだか。
よもや生きてはいないと思うが……念のためだ。
ラグランジュ、後は任せた。私は奴を追う。」
「…………。」
「入ってきた通路が崩れた!?
……袋の鼠に嵌ったのは、
どうやら俺たちだったようだな。」
「…………。」
「アーノルド……。」
「ああ。大丈夫だ。俺が守る。」
「…………。」
「――何故だ、何故手を差し伸べる!」
「……俺には、これ以上君たちと戦う理由はない。」
「!!!」
「!?」
「私が追っているのは、ステヴィン長官――
いや、ジェイムス=エディソンただひとり。
彼の行方が不明な以上、また捜索が私の任務だ。」
「そこのジャンヌという女には、
シュレーディンガー家をはじめとする
いくつかの窃盗の容疑が掛けられていたが――。」
「そっちは宰相命令ではない。だから、忘れることにした。
それに、あの男は『後は任せる』と言っただけだ。
伝達が曖昧な以上は、どうしようと俺の勝手だ。」
「ラグランジュ、お前……。」
「ベル。その女を抱えられるか。」
「え? お、おう?」
「よし、崩れる前に逃げるぞ。」
「!?」
「え?だけど、出口は……。」
「入ってきたのとは反対側に、もうひとつ通路がある。
昔と変わっていなければ、そのまま城址跡公園に
繋がっているはずだ。」
「どうして……。」
「言っただろう、エディソンがこの場にいない以上、
もう君と戦う理由はない。
俺は騎士団員として、使命を全うしただけだ。」
「でも、アタイは……。」
「――君は、この国で誰も殺していない。」
「!!!」
「俺はブランドブレイの騎士団員だ。
法にない限りは他国での出来事には関与しないし、する権限もない。
それだけだ。」
「……恩に着るぞ、ラグランジュ。」
「崩壊は近い――行くぞ、生きるために。」
「ああ。」