『真実の抹消者(前編)』
「ジャンヌ、大丈夫か!?」
「大丈夫じゃないけど……大丈夫……。」
「……何もかも崩れ去ったな。」
「ベル、急げ。
あの男の考えが変わって、戻ってくる可能性もある。
そうしたら、その女の命はなくなる。」
「あ、ああ。だけど、どうすれば……。」
「心配したぞ、ラグランジュ。一体何が――。」
「コペルニクス騎士団長。
一つ頼みがある。
馬車を一台手配してくれないか。大至急だ。」
「……どういうことだ。」
「あの男が、絡んでるんだ。」
「……分かった。これ以上は聞かぬ。」
「聞いたとおりだ、ベル。
馬車に乗って逃げろ。
この国から離れた遠い場所まで。」
「騎士団長様……。」
「お前達に、俺と同じ思いをして欲しくはなかったんだ。
……それまで隣にいた人間を、
人質に取られる事ほど辛い思いはない。」
「……ラグランジュ。」
「例えあの男がいても――守護こそが騎士団の本懐。
それでも俺は、騎士なんだ。
誰かを守る為の騎士だから。」
「君は君の道を選んだ、
俺は俺の道を選んだ。
そう言ったのはお前だろ?」
「そうだったな。」
「……馬車が着いたぞ。」
「乗れるか、ジャンヌ?」
「ん……ごめん、全然力が入らないの……。」
「わかった。よっこいせ……!」
「きゃっ!
ち、ちょっと、お姫さま抱っこって何よ!?
恥ずかしいじゃないっ!」
「いてっ!いたいってば!ひっかくなっ!」
「そんだけ口聞ければひとまず大丈夫だな。」
「……騎士団長様、ありがとう。」
「ラグランジュ、俺からも礼を言わせてくれ。ありがとう。」
「……もしかするとあの男が、
そのうち追ってくるかもしれない、気を付けろ。
未来に足跡を残すな。それだけが生き延びる唯一の道だ。」
「ああ。分かった。」