『真実の抹消者(前編)』
「……ねぇ。」
「ん?」
「この馬車、どこに向かっているの……。」
「帝都カイザリアだ。」
「……最後の最後に、アタイ捕まっちゃったね。」
「…………。」
「……?
ねぇ、今、方向転換しなかった?
どこに向かってるの?」
「帝都行きはやめて、アンダルシア市を目指す。
俺の知り合いがいる。
そこでひっそりと暮らすんだ。」
「……嫌。」
「え。何が?」
「アンタがいないのは、嫌。」
「なっ……えっ、あぅあ?」
「危なっ、ス、スマン。」
「ううん。
……離れたくない。
アンタの側にいたいんだ。」
「……なぁ、これは独り言なんだが。」
「うん?」
「……俺、最初は盗まれた家宝のレインエッジを
取り戻す為にお前を追いはじめた。
だけど、長い長い追跡劇の途中で気付いたんだ。」
「本当はもう家宝なんか、どうでもよかった。
会うたびにレインエッジよりも、
お前の瞳に目を奪われていたから。」
「んっふっふ……あはっ、あはははっ。」
「な、なんだよ!
そんなに可笑しいかよっ!
だから独り言って言っただろう!」
「んふふ。そういう言い訳するところもおかしい。」
「……やっぱ言うんじゃなかった。」
「あはは。だって、アタイもそうだもん。
アンタに捕まったのは、身体も心も。
本当は、ずっとこうしたかったの。」
「え…………。」