『真実の抹消者(後編)』
「アウグストが殺され、
ユリアは行方不明。
厄介な事になってしまった……。」
「――もっと厄介なのは、
犯人の知っている魔導原本の情報が、
果たしてどちらの情報か、分からぬ事だ。」
「どちらの情報?」
「今現在この国にある魔導原本は、一枚ではない。
犯人の狙いが二枚のうちいずれか、
あるいは双方か分からぬ以上、両方を守るしかない。」
「……どういうことですか、ウェルナー将軍。」
「戻ってきた一枚は再び王立文庫の隠し部屋に収められたが、
それとは別にもう一枚がこの国には眠っている。
文庫とは異なる場所の隠し部屋に。」
「――その具体的な場所を、ご存じなのですか。」
「在処は公爵家の人間のみが知っている。
だが、そこに至るまでの手順は、代々の将軍しか知らぬ。
両方が揃って初めて、鍵となるのだ。」
「そのために、我が息子は殺され、このまま孫娘をも見殺しにしろと。」
「無論。どのような圧力にも屈する訳にはいかぬのだ。」
「……ウェルナー将軍。
王立軍の目的が何であるか、
今一度お訊ねしたい。」
「む?
いきなりどうしたというのだね?
哲学問答なら後でじっくり聞いてやる。今は――」
「将軍のみぞ知るその鍵こそが、
いまこの国に危機を及ぼしている事はお分かりか。
伝説と人命の、いずれが大事か。」
「ボイス。君は事の重大さを理解していない。
魔導原本は伝説であるが故に、
世界を狂わす存在でもあるのだ。」