『真実の抹消者(後編)』
「はぁ……はぁ……。階段長すぎないか、ここ。」
「展望台だからな。市街を見渡せなければ意味がない。
着いたぞ、ここが最上階――……。
ボイス、何があった?」
「……ウェルナー将軍が死んだ。」
「!!!」
「うわっ……酷い刀傷だな。」
「…………。」
「……――そういうことか、分かった。
しかし、厄介な問題になるぞ。
仮に将軍位を狙ったクーデターだと思われたら――。」
「そう思われないためにも、当分将軍位は空席にする。」
「なるほど、そういう手もあるか。」
「何の話だ?」
「いや、内輪の話だ。さしたる問題ではない。
――それで、賊はなんだと?
何か要求でも言ってきたか?」
「ああ。マスターキーをよこせ、と。」
「マスターキー?」
「そうだ。俺には未知の話で、何のことかさっぱり……。」
「聞いた事がある。王城の見取り図が刻まれた結晶体だろう?」
「知っているのか、レオン!?」
「確かセンティス事件の時に、
ブランドブレイ騎士団が王城を占拠した事があっただろう。
その時から行方不明になっている。」
「センティス事件?」
「騎士団長様はどうやらご存じないようですな。
シルバニアがまだ公国として出来たばかりの時代。
その独立を認めず、二つの騎士団がシルバニアを占拠した事件を。」
「マスターキーはその時、
騎士団に奪われたと聞き及んでおります。
以降、今に至るまでずっと行方不明と。」
「いずれにせよ、この国にはもうないでしょう。
あるとすればブランドブレイ王国のどこかに。
歳月が経ちすぎている故、既にその存在を知るものなどいないかもしれませんが。」
「そのマスターキーとやらは、どんな形状なんだ?」
「さっきの男は、
ペンダント状に加工された
透明な結晶体だと、言っていたが。」
「!?……ちょっと待ってくれ。」
「いかがなされた、騎士団長様?」
「透明な結晶体の、ペンダントだと?」
「奴はそういっていた。」
「中に、幾何学紋様――つまり王城設計図の刻まれた?」
「何か心当たりがあるのか?」
「そうだ、あれはリタが――!」
「???」
「いまから20年前、
この国に移住してきたトリチェリーという姓名の人間がいるはずだ。
居場所は分かるか?」
「トリチェリー?」
「そうだ、トリチェリー。
確か、母方のベークランド家の親戚筋を頼って
この国に引っ越してきたはずだ。」
「ベークランドだと!?」
「なんだよ、いきなり大声出して。」
「俺の嫁、イーディスが旧姓ベークランドだ。」
「なんだって!?」
「トリチェリ、トリチェリ――。
そうだ、大通りにある四つ星の酒場の、
隣に住んでいるあの家族か。」
「心当たりがあるのか。ならば、案内してくれないか?」
「わかった、場所なら分かる。俺が先導しよう。」
「……ラグランジュ騎士団長殿。」
「うん?」
「どうか頼む。ユリアを、ワシの孫娘を――。」
「分かった。待っててくれ。」
「……ああ。」