Forbidden Palace Library #J02 『真実の抹消者(後編)』

『真実の抹消者(後編)』


シルバニア王国 王都
繁華街 トリチェリー邸


こんこんこん

ラグランジュ 「夜分に申し訳ない、開けてくれ!」


こんこんこん


…………。


がちゃっ

マルガリータ 「……こんな夜更けに、どなたです?」

ラグランジュ 「えっと、リタ、だよな?」

マルガリータ 「マルガリータは私ですけど……どうして愛称で呼ぶの?」

ラグランジュ 「……本当に、何もかも忘れちまったんだな。」

マルガリータ 「???」

ラグランジュ 「時間がないんだ。手っ取り早く話す。
 お前の持ってるペンダントが、訳ありで必要なんだ。
 子供の命が掛かっている。渡してくれないか。」

マルガリータ 「!!! イヤです。
 どうして私の宝物を知っているのかは存じませんが、
 あれは貰った大切なペンダントなんです!」

ラグランジュ 「……誰に、貰ったんだ?」

マルガリータ 「――――。
 ……思い出せないんです。
 でも、すごく大切なものなんです!」

ラグランジュ 「……そうか。
 その言葉が聞けただけでも、
 充分嬉しさがこみ上げてくるんだが、今は――。」

マルガリータ 「それに……ありません。」

ラグランジュ 「え?何がだ?」

マルガリータ 「ペンダントは、ここにはありません。」

ラグランジュ 「え?」

マルガリータ 「……留め具が壊れて、修理に出しています。」

ラグランジュ 「どこにある?」

マルガリータ 「言えば、貴方はそれを奪いに行くのですか!?」

ラグランジュ 「――分かってくれ。
 緊急事態なんだ。
 子供の命が掛かってるんだ。」

マルガリータ 「……マティルダさんに、修理に預けています。」

ラグランジュ 「マティルダ!?懐かしい名前を耳にしたな。
 だが、そんなところにあるとは。
 今からブランドブレイに引き返してる時間はない――。」

マルガリータ 「あら……貴方も知り合いなのですか?」

ラグランジュ 「ということは、マティルダの事は憶えているんだ。」

マルガリータ 「憶えてるって、何がです?」

ラグランジュ 「いや、いいんだ。分かっていた事だから。
 ……本当に俺に関する事だけが、
 すっぽりと抜け落ちているということか……。」

レオン 「騎士団長様。
 マティルダさんとお知り合いなら、
 当たってみたらいかがです?」

ラグランジュ 「だから、今から1時間半で
 ブランドブレイまで往復できたら苦労してないんだ。
 よりによってマティルダとは……。」

レオン 「なんだ。てっきりこの隣の家のマティルダさんの話かと思って。」

ラグランジュ 「隣かどうかは知らないが、とにかくマティ――。
 ちょっとまて、隣ってなんだ。
 この家の隣にもマティルダっていう女性が住んでいるのか?」

レオン 「つい先程、第6師団長に昇格したばかりの、
 マックスウェル元連隊長の妻である、
 マティルダ=マックスウェルさんなら、この向かいに住んでるはずだ。」

ラグランジュ 「ああ、それだと姓名が違う。
 俺が知ってるのはディラック姓だ。
 流石に同じ人物がこんなシルバニアに――。」

レオン 「旧姓は確か、ディラックだったな。」

ラグランジュ 「――ビンゴだ。」


▽……。



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