『真実の抹消者(後編)』
「夜分に申し訳ない、開けてくれ!」
「……こんな夜更けに、どなたです?」
「えっと、リタ、だよな?」
「マルガリータは私ですけど……どうして愛称で呼ぶの?」
「……本当に、何もかも忘れちまったんだな。」
「???」
「時間がないんだ。手っ取り早く話す。
お前の持ってるペンダントが、訳ありで必要なんだ。
子供の命が掛かっている。渡してくれないか。」
「!!! イヤです。
どうして私の宝物を知っているのかは存じませんが、
あれは貰った大切なペンダントなんです!」
「……誰に、貰ったんだ?」
「――――。
……思い出せないんです。
でも、すごく大切なものなんです!」
「……そうか。
その言葉が聞けただけでも、
充分嬉しさがこみ上げてくるんだが、今は――。」
「それに……ありません。」
「え?何がだ?」
「ペンダントは、ここにはありません。」
「え?」
「……留め具が壊れて、修理に出しています。」
「どこにある?」
「言えば、貴方はそれを奪いに行くのですか!?」
「――分かってくれ。
緊急事態なんだ。
子供の命が掛かってるんだ。」
「……マティルダさんに、修理に預けています。」
「マティルダ!?懐かしい名前を耳にしたな。
だが、そんなところにあるとは。
今からブランドブレイに引き返してる時間はない――。」
「あら……貴方も知り合いなのですか?」
「ということは、マティルダの事は憶えているんだ。」
「憶えてるって、何がです?」
「いや、いいんだ。分かっていた事だから。
……本当に俺に関する事だけが、
すっぽりと抜け落ちているということか……。」
「騎士団長様。
マティルダさんとお知り合いなら、
当たってみたらいかがです?」
「だから、今から1時間半で
ブランドブレイまで往復できたら苦労してないんだ。
よりによってマティルダとは……。」
「なんだ。てっきりこの隣の家のマティルダさんの話かと思って。」
「隣かどうかは知らないが、とにかくマティ――。
ちょっとまて、隣ってなんだ。
この家の隣にもマティルダっていう女性が住んでいるのか?」
「つい先程、第6師団長に昇格したばかりの、
マックスウェル元連隊長の妻である、
マティルダ=マックスウェルさんなら、この向かいに住んでるはずだ。」
「ああ、それだと姓名が違う。
俺が知ってるのはディラック姓だ。
流石に同じ人物がこんなシルバニアに――。」
「旧姓は確か、ディラックだったな。」
「――ビンゴだ。」