『真実の抹消者(後編)』
「おい、マティルダ!
いるんだろ、開けろっ!
寝てるなら起きろっ!!」
「夜中に迷惑ですよ、騎士団長さん……。」
「おい、マティルダ!」
「うっるさいわねー! とっくに閉店時間過ぎてるわよ!
赤ちゃんが目を覚ますでしょっ!
用事があるなら明日また来てちょうだい!」
「マティルダ、俺だ!」
「誰よ!」
「えーと――ふるえるわかめ、
3日で分かる禁呪魔導、
リタにあげた透明なペンダント!」
「…………。」
「……何やってんのよ、こんな時間にこんな所で。」
「それはこっちのセリフだ。
ちっとも姿を見ないと思ったら、
お前いつのまにシルバニアに引っ越してたんだよ。」
「5年前の事件のすぐ後よ。
あのとき建物が壊されて使い物にならなくなっちゃったから、
荷物全部こっちに持ってきたのよ。」
「修理しろよ。」
「やーよ、面倒くさい。」
「あら、本当に知り合いだったのですか。
それに、私にあげたペンダントって、
どういうことです……?」
「……なぁ、マティルダ。
こいつ、お前が引っ越してきた時、
お前の事憶えてたか?」
「ううん。それがどういうわけか全然。
……あれ、もしかして貴方も、
リタちゃんに忘れられちゃってるとか?」
「……あのー、一体何を話しているのですか?」
「全く持ってその通りなんだ、マティルダ。
そうか、リタがマティルダの事を知っていたのは、
20年前の話じゃなくて向かいに越してきたからか……。」
「それで、ロリコンの思い出話を聞かせるためにわざわざ深夜に?」
「ああ、そうだ。用件忘れるところだった。あとロリコンじゃない。
――リタのペンダントがここにあるだろう、
それをこっちに渡して欲しい。」
「20年前にあたしが売ったやつ?
確かに修理に預かってるけど、まだ作業終わってないわよ。
それに、リタちゃんはどうなの?」
「…………。」
「ちょっと、嫌そうな顔してるじゃない。
どういうことよ。
一度あげたプレゼントを取り上げるって、男として最低よ?」
「そうじゃないんだ。事情があって――。」
「マティルダさん、一度そのペンダント、返してもらえますか?」
「リタ!」
「貴方に愛称でそう呼ばれる筋合いはありませんっ。」
「…………リタ……。」
「んー。
どういう事か全く話が見えてこないんだけど、
筋としてはリタちゃんに返すべきよね。はい。」
「ありがとうです、マティルダさん。」
「……もう一度だけ聞いてくれ。
人命が掛かっているんだ。それも小さな子供の。
どうしても脳裏で、あの時の光景と被るんだ。」
「だから、そのペンダントを――。」
「そのペンダントを、渡して貰おう。」
「!!!」