『真実の抹消者(後編)』
「ふっ。ジェイムス。
無駄なあがきは止め、マスターキーをこちらへ渡せ。
そうすれば貴様の命は見逃してやる。」
「……欲しくば、私を倒してからにするがいい。
マスターキーは私の胸ポケットにしまった。
重力魔導で一撃絶命を狙えば、マスターキーも破壊される運命にある。」
「……ふっ。
いつのまにやら、余計な知恵まで付けたようだな。
面倒な手間を掛おって。」
「――あれから5年。更なる修行を積み、
ヴェクター流脚部格闘術は極限の域に達した。
全てが完璧に至った今、最早負ける訳などない!」
「世間を知らぬ者にありがちな、
盲目で根拠なき自信、というわけでもなさそうだ。
一体何が、貴様をそこまで駆り立てるというのだ。」
「至上命題が全てだ。」
「ふっ、つまらぬ男だ。他に何も生き甲斐がなかったのか。」
「……ただひとり、愛した女はいた。
だが、エリカは――もうこの世にいない。
450年近く昔の話だ。」
「450年前だと?」
「私はかつて、貴方を暗殺すべく策略を巡らせた。
しかし返り討ちに遭い、
肉体は滅びた。ただ記憶のみを遺して。」
「ほう。仮に貴様の発言が戯れ言でないとして、
どのようにして記憶を把持したまま転生したのか
興味深いな。」
「私にだってそのようなことは分からない。
ただ、絶対命令と至上目的こそが
それを可能にしたと信じている。」
「ふっ、非魔導的な考え方だ。」
「非魔導的だろうが科学的だろうが、
私に残されたのは至上命題のみ。それが全てだ。
愛したエリカ=ラントシュタイナーはもうこの世にいないのだから。」
「……ラントシュタイナー?」
「そうだ。
現代の人間が知るはずもない、
遠い昔の――。」
「バレンタイン港の、ラントシュタイナー家?」
「!? なぜそれを!?」
「その末裔なら――現代にまだ生きている。」
「!?!?」