『真実の抹消者(後編)』
「……バレンタイン港、
大陸歴183年、新月の夜、三つ星の酒場の裏路地。
なるほど、全てが繋がったぞ。」
「……どういう……ことだ!?」
「あの時のエリカという娘、
どうやら貴様の子供を宿していたようだな。
残念ながら末裔たるあの軍医は、先日殺めてしまったが。」
「なっ……貴様っ!」
「ふっ。だが安心するがよい。
あやつの一人娘には手を掛けていない。
まだ小さな赤子が、生き残っているはずだ。」
「……なんだっ……て……。」
「どうやら貴様に守るべき対象が――
いや、弱点ができたようだな。
ならば貴様の子孫が人質だ。」
「…………なっ!」
「もう一度でも私を弑逆しようなどと考えるなら、
今度こそ血は絶えると思え。
赤子に自らの命を守るだけの能力など、ないのだから。」
「――――…………。」
「……エリ……カ…………。」
「ふっ。
もはやこの男に、戦うだけの気力は残っていない。
自慢の完璧な格闘術とやらも、無に帰したようだな。」
「…………――――。」
「マスターキーを、渡すがいい。」
「ボイス。第6師団から連絡だ。
『狙撃可能位置に到着、命令を待つ。』
どうする。」
「……失敗した時のリスクが高い。
マックスウェルを信用していないわけではないが、
外した場合の事を考えると危険すぎる相手だ。」
「見逃すのか?」
「やむを得まい。
発足したばかりで経験の浅い師団に、
国家の運命を委ねる訳にはいくまい。」
「それは一理ある。
だが、ここで取りこぼせば、
また同じような危機が訪れるかもしれないぞ。」
「その時までに、第6師団の練度を上げる。
今は、まだ無理だ。
今回の事を教訓に、次の憂いに備えるしかありまい。」
「……分かった。
お前がそう言うなら従おう、副将軍ボイス。
将軍不在下では、お前が最高司令官だ。」
「……なぁ、レオン。」
「どうした?珍しく弱気な声で。」
「俺はどこかで、運命を間違えていたのだろうか。」
「……何百何千何万回と繰り返される歴史の中で、
常に最善の選択を選んだ結果が今なんだ。
だから、目の前にある人生を精一杯全力で生きるしかない。」
「……そうか。そうだな、ありがとう。」