『真実の抹消者(後編)』
「――ラグランジュ。」
「…………。」
「おかしいか、この私が。
全ての人生を捧げ、育てた弟子をも失ってなお、
エルネスト暗殺という至上命題を求めた私が。」
「対魔導脚部格闘術は完璧を極めた。
だが、行使する機会は奪われた。
たったひとつの、小さな理由によって。」
「…………。」
「あのエリカに、私の子供が生まれていたなど。
まだ見ぬとはいえ、愛した恋人と自分の末裔を、
どうして見殺せようか。」
「……後悔しているのか?」
「いや、ただ虚しいだけだ。
私の為してきたことは、一体なんだったのかと。
我が人生とは、一体なんだったのかと。」
「…………。」
「ラグランジュ。
私はもうどこへも逃げない。どこへも行かない。
国家反逆罪で逮捕するがいい。全ての罪を受け入れよう。」
「…………あと、15秒。」
「……何がだ?」
「…………。」
「ラグランジュ?」
「…………10。」
「君の役目は、私の逮捕ではなかったのか。」
「……5、4、3……。」
「さっきから一体何を数読んでいる。」
「2、1――――。」
「!?」
「0時だ。」
「言われなくても鐘の音で分かる。」
「今日で、あの日からきっかり20年。国外追跡の時効だ。」
「なっ……――!?」