『真実の抹消者(後編)』
「なっ……時効……!?」
「ブランドブレイ王国内に於ける
その指名手配は永久に残るが、
国外に於ける追跡の手はここまでだ。」
「……ラグランジュ……?」
「二度とブランドブレイの地を踏む事はできないが、
それでも生き延びることは出来る。
……貴方にも、至上命令とやらだけではない人生があるはずだ。」
「――今の言葉は、
もしすかると俺自身に、
言い聞かせているのかもしれないな。」
「本当に逮捕しなくていいのか。
私が言うのもおかしいが、責任問題になるぞ。
お前の騎士団長としての地位も危うく……。」
「もう、必要ないんだ。」
「なに――?」
「ブランドブレイの騎士団では、
シルバニアの人間を守れない。
だから、俺、騎士団長――辞めるよ。」
「!?」
「騎士ってのは、誰かを守るものだ。
だけど、本当に守りたい人はブランドブレイにいなかった。
この子がいるのは、シルバニアだから。」
「おにーちゃんっ!」
「……リタ!」
「あの時の少女も、大きくなったものだ。
既に立派な淑女だ。
……20年も経てば当然か。」
「え。どうして私の事知って――え、あれ。……ちょーかん?」
「記憶の封印が解けたのか。」
「ん。まだ一部ふわふわしてるけど大丈夫。
……もうひとつだけ何か大事なことを、
忘れている気がするんだけど。」
「……一つ、謝らなければならない事がある。」
「はい?なんです?」
「ペンダント、済まなかったな。」
「……ううん、いいんです。
ペンダントはなくなったけど、
代わりにおにーちゃんが戻ってくれたから。」
「私には、こっちの方が大事です。」
「……リタ。
例え遠くに離れていても、俺はお前を守りたくて。
あの日からずっと。」
「もう、離れちゃいやですよ?」
「ああ。ずっと側にいる。」
「ん。」
「……第十三の機構は、本日を以て解散する。
アルゲンタイン帝国西軍・第十三中隊もだ。
――レイン皇帝陛下、命令を完遂できない私をお許しください。」
「軍人である以前に、あなたは一人の人間なんだ。」
「……ラグランジュ……。」
「ステヴィン長官。いや、もう長官じゃないか。
あんたは遠い昔、何になりたかったんだ?
誰でも小さい頃からの夢のひとつはあっただろう。」
「……エリカと出会うよりも昔。
まだ塔すら建たぬあの都で、
小さい頃、私がなりたかったのは――。」