Forbidden Palace Library #J02 『真実の抹消者(後編)』

『真実の抹消者(後編)』


シルバニア王国 バレンタイン港



時は流れ、5年後。624年。


ジェイムス 「――この港町も、大きく変わったな。
 だが所々に昔の面影がある。
 そういや……この街角だったな。」

ジェイムス 「いつもここで、絵を描くふりをしながら
 ずっと通行人の観察を続けていた。
 いや、実際ふりではなく、絵を描いていたわけだが。」

ジェイムス 「確かに小銭稼ぎとしては役にたった。
 だが、優先すべきは至上命題であり、
 絵画など所詮は片手間にすぎなかった。」

ジェイムス 「……そうだな。
 もう一度だけ、思い出に溢れたこの街を、
 任務とは関係なしに描いてみるのも悪くはないかもしれないな。」

ジェイムス 「――もう、私に生きる役目などないのだ。
 当時の私を知っている人間も、
 皮肉なことにあの男以外誰も生きてはいない。」


つーっ。

ジェイムス 「愛したエリカすら――。」

エリーゼ 「やぁっ!たぁっ!」

ジェイムス 「…………。」

エリーゼ 「あわっ。」


すってーん。

ジェイムス 「お嬢ちゃん、そんなところで何をやってるんだ?」

エリーゼ 「ん……強くなりたいの。」

ジェイムス 「強く?」

エリーゼ 「うん。強く。
 ……あたしが生まれてすぐに、お父さんころされたから。
 もう、たいせつなひとたちをなくしたくないの!」

ジェイムス 「なるほど……。
 それで見よう見まねで、武術の練習か。
 えーと――お嬢ちゃん、名前は?」

エリーゼ 「エリーゼ。エリーゼ=ラントシュタイナー。」

ジェイムス 「!!!」

エリーゼ 「……どうしたの、おじちゃん?」

ジェイムス 「――なんという、ことだ……。
 本当に、ラントシュタイナーなのか?
 確かにその髪の色、そっくりだ……お前が?」

エリーゼ 「ん。これはお父さんゆずりの髪色なんだって。」

ジェイムス 「――――絶望という暗闇の中で、
 たったひとつの希望を拾う事になろうとは……。
 運命よ。私に、まだ生きろということか。」

エリーゼ 「おじちゃん、大丈夫?顔色わるいよ?」

ジェイムス 「……私はかつて、とある格闘術を知っていた。
 いや、編みだしたと言うべきか。
 対魔導戦に於いては、恐らく最強であった事だろう。」

エリーゼ 「!!!
 教えて!
 その技を、教えて欲しいの!」

ジェイムス 「……残念だが、それはもう役目を止めた技なのだよ。」

エリーゼ 「いつか好きな人を守れるように強くなりたいの!
 もう二度と後悔したくないの。
 目の前で、大好きな人を失うのはもうごめんなの!」

エリーゼ 「わたし忘れない!
 あのときの哀しい感情だけはぜったいに忘れない!
 だから、だから強くなりたいの!」

ジェイムス 「…………。」

エリーゼ 「…………。」

ジェイムス 「……私の負けだ。
 何が嬢ちゃんをそこまで動かすのかわからんが、
 その情熱と髪の色に負けた。よかろう。」

エリーゼ 「本当!? 本当に教えてくれるの!?」

ジェイムス 「ああ。私が知る限りのほぼ全ての技を授けよう。
 このメーヴィウス対魔導格闘術、
 お主が、私の最後の弟子だ。」

エリーゼ 「うん、わかった!
 約束だよ!
 絶対に、絶対にわたし強くなる!」


ごーん ごーん ごーん ごーん ごーん ごーん

エリーゼ 「あ、夕飯の時間だ……帰らなきゃ……どうしよう。」

ジェイムス 「ははっ、慌てる事はないさ。
 それなら特訓は明日からだ。
 それでいいだろう?」

エリーゼ 「分かった、絶対だよ!」

ジェイムス 「大丈夫だ、私は毎日ずっとここにいる。
 もう一度ここで、絵を描いてみたい。
 そうだな、まず画材を買い戻さないと。」

エリーゼ 「……そういえば、おじちゃん。」

ジェイムス 「うん?」

エリーゼ 「なんて呼べばいいの?おじちゃん師匠でもいいけど……。」

ジェイムス 「ん?私か?
 ――私の名前は、ジェイムス=エディソン。
 年寄りながらも今から画家を目指す、たった一人の風来坊さ。」

ジェイムス 「なぁ、エリカ。そうだろ?
 お前は俺がいなくても子供を育ててくれた。
 今度は俺が、そのお返しをする番だ。」



おしまい。

――そして『真実の継承者』『失われた7枚』へと続く。



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