Forbidden Palace Library #02 前例なき犯罪


王都シルバニア
住宅街
パン屋ソフトブレッド

店先には『ソフトブレッド』と刻まれた木彫りの看板がぶら下がっている。
小さなショーウィンドウ越しにみえる店内には、数種類のパンが綺麗に並べられている。

カウンターの奥に座っている店番らしき女性は何か考え事をしているようだ。


「あのー」

アリス 「いらっしゃいませ。
 あら?
 この間の……。」

「あのですね、またちょっとお伺いしたいことがあるんですがよろしいでしょうか?」

アリス 「はい?なんでしょうか?」
(はぁ……これがレナード師団長だったらいのに……。
 いえ、いけないわ。今は仕事中よ。そんな事考えちゃ駄目よ、アリス。)

「変な人、見ませんでした?」

アリス 「…………はい?」
(な、なぁに!?
 も、もしかして、それって私の事!?いえ、そんなはずないわっ!)

「いえ、ですから変な人」

アリス 「…………えーと」
(そうよ、私がすごい妄想癖を持った変な女の子だってことは誰にも内緒のはずよ。
 ええ、これは誰にも知られていないはずよ……でも……もし知られていたら……。)

「たぶん目が二つで鼻が一つ、そして口が一つ付いていると思うんですけど……」

アリス 「…………。」
(ああっ!もし知られていたらどうしましょう……。
 きっとみんな私のことを白い目で見るわっ!いえ、そうに決まっているのよっ!)

「あと耳が二つほどついているかなぁと。」

アリス 「…………。」
(きっとレナード師団長まで……やめてっ!お願いっ!そんな目で見ないでっ!
 貴方にだけはそんな目で見られたくはないのっ!)


五分経過。


「たぶん指の数は20本だと思うんですよ。あ、もちろん手足両方の指を数えてですよ。」

アリス 「…………。」
(そう、子供は二人。男の子と女の子一人ずつがいいわ。
 ああっ、でもその為には……いや、そんな。恥ずかしいわ……。)

「……っていう感じの変な人なんですけど、見ませんでした?」


更に五分経過。


アリス 「…………。」
(ああっ!駄目よあなたっ!
 お願い……子供が起きちゃうわ…………あぁっ!)

「……あのー、話、聞いてます?」

アリス 「はっ!?あ、ご、ごめんなさい、ちょっと考え事していたもので……」

「……ずいぶん長い考え事ですね。
 で。
 変な人、見ませんでした?」

アリス 「さぁ……特に見ませんでしたけど……。」

「そうですか。
 ご協力どうも。」
(急に黙ったかと思えば突然首振ったりして……面白い人だなぁ……)

アリス (ふう……私の妄想癖、ばれていないようね……よかった。)

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