「……以上が来年度の王立軍予算の配分予定となるが、何か異議は?」
「あるある、大ありだ。
そんな馬鹿な話に予算を費やすよりは、
俺の魔導実験台購入費を……」
「馬鹿とはなんだ、将軍に向かって!」
「あたりまえだろ、どこにおやつのクッキー代を国家予算から出す国がある?」
「ここに。」
「……なんかその口調に既視感を憶えるんだけど、気のせいか?」
「なにを訳のわかんないこと言ってんだよ。
とにかくクッキー代を国家予算から捻出することに俺は断固として反対だ。
そんな余裕があったら是非とも実験台確保のために……」
「ロウクス君!
あ、い、いえ、アシスト師団長っ!
またそうやって実験台とか考えて!」
「……ロ・ウ・ク・ス・君〜?
あらぁ、エリーゼちゃん☆
今、ロウクス君って言わなかったぁ?」
「な、なんですか、ユリア師団長。……べ、別にいいじゃないっ。」
「ひゅーひゅー☆」
「ねぇねぇ、予算審議を延長して白熱してる最中に
水を差すようだけど、このあとカイザリア帝国から
新しい駐在大使が着任するんじゃなかったっけ?」
「ユ、ユリア師団長っ!」
「耳まで赤くなっちゃって、エリーゼちゃんかぁわいいー☆」
「とにかくわしのクッキー代……」
「却下だ却下、そんなもの。」
「駐在大使、誰が迎えに行くの?」
「それよりもさっ、町中をもっともっと明るくしない?
私が夜でも出歩けるように、ぱーって暗闇無くしちゃうの☆
いい案だと思わないー?ね、ね☆」
「他の都市に較べたら街灯も整備されてるし、もう十分明るいだろうが。」
「いっそ夜も昼にしなきゃイヤイヤンっ!」
「……誰か僕の話、聞いてる?」
「なぁユリア、
前からかねがね疑問だったんだが、
お前どうしてそんなに暗いのが苦手なんだ?」
「やーねー。
そーやって乙女の秘密を探ろうとして☆
……グリフィスちゃんのえっち☆」
「だぁぁぁぁぁぁっ!どうしてそうなるぅぅぅっ!」
「……えっち☆」
「お前まで言うなぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「うん。
わかった。
じゃあ僕が迎えに行ってくる。」
「だがしかし、真実は追求してこそだよな。
なぁボイス将軍、あんたユリアの祖父だろ?
どうしてあんたの孫娘はこれほどまでに暗所恐怖症なんだ?」
「だめだめだめぇっ!思い出すから言っちゃだめぇぇぇっ!」
「……そうか。大陸の由来を知りたいというか。
伝承によれば……我々が大陸歴と呼んでいる年号が出来る以前、
そう、現在旧暦と呼ばれている年号が用いられていた時代……」
「あー、だめだこりゃ、また昔話モードにはいりやがった。」
「確か待ち合わせ場所は……城壁北のネフライト門の前だっけ?
うん。それなら大丈夫。
だって僕の家のすぐそばだもん。じゃあ行ってくるね。」
「……人はかつて魔導を持っていなかった。だが、決して野蛮だったわけではない。
今となってはどの程度の文明だったかはよくわからないが、
地と海と空、そして空の果てまでも統べようとしていたとの事だ……」
「……レナード副将軍、先ほどから熱心に一体何をメモしているんですか?」
「あ、いや、なんでもない。気にするな。」
「……今その紙に『A計画』とか書いてなかったか?」
「え?なになに?A計画ってなに?」
「秘書です。
ただいま戻りました……あれ?
アークライト師団長がいませんけど、また大幅な遅刻ですか?」
「え、アーク?
さっきまでそこにいたはずなんだけど……机の下?
本棚の中にも……いないわねぇ。」
「じゃあ引き出しの中か?」
「子猫じゃないんですから、そんなところにいるわけないですよ。」
「……まさにその時、わしは悠然と剣を両手に立ち向かい……!」
「なぁ、また将軍のいつもの昔話になってないか?」
「……ああ、そういえば。」
「どうしたの、レナードちゃん?」
「いや、さっきアークが、誰かを迎えに行くとか言っていたような。」
「そういわれれば……カイザリア帝国からの駐在大使を迎えに行くとか……」
「誰が迎えに行ったんです?」
「だからアークライトが……まずいっ!
おい、秘書っ!
先回りして早く駐在大使を迎えに行ってくれっ!」
「あ、は、はいっ!
ってどんな方なんです?
駐在大使って?」
「赤毛の変な男だ。名はグラン=ハミルトン。早く行けっ!」
「は、はいっ!!!!」