Forbidden Palace Library #07 夜明けの前に


王都シルバニア
アークライト邸

城壁の側、比較的分かりやすい区画に建っているアークライト邸。
大通りから家の玄関まで、綺麗に一直線の歩道が続いている。 にもかかわらずほとんどの足跡はその歩道に跡を残さず、むしろ庭の中のあちこちに残っている。

余談になるが、隣の家の表札にもアークライトと書かれている。
アークライト師団長の祖父や親が住む実家である。


「…………?
 どこかで見たような女性……ってええっ!?
 レミィ女王陛下っ!?」

レミィ 「あら、秘書さん。こんばんは。」

「あ、こんばんは。
 ……ってそうじゃなくて、
 陛下、こんな夜中に何やっているんですか?」

レミィ 「夜のお散歩。
 気持ちいいわよ、人々が寝静まった町を歩き回るのって。
 うふふふふふふ。」

「……レ、レミィ陛下? あの、その含み笑いは一体……。」

レミィ 「だって夜だから何やっても人目の心配がないでしょ?
 ほら、十字路に寝転がってみたり、街路樹にのぼってみたり。
 うふふふふふふ。」

「……なんか昼間と人格違いません、レミィ陛下?」

レミィ 「そうかしら?
 それよりも夜ってなんてこんなに素敵なんでしょう。
 うふふふふふふ。」

「まさか、まさかとは思いますが、
 その夜更かしが原因で
 昼間いつも寝ているとかいうことはありませんね?」

レミィ 「はなまるぅあげちゃう、秘書さん。」

「ええっ?!ほ、本当にそれが原因なんですかっ!?
 って、ち、ちょっと待ってくださいよっ!
 人の手にペンで何を描こうとしてるんです、陛下?」

レミィ 「はなまるぅ。」

「いえ、はなまるぅ、ではなくて……。」

レミィ 「ああ、手に描かれるのがいやなのですね。」

「ええ、まぁそういうことです。」

レミィ 「ではほっぺたに描いて差し上げましょうか?
 可愛いはなまるぅ。
 なんとなくやわらかそうなほっぺなんですもの。」

「いえ、もっと遠慮しておきます。」

(……どうして。
 どうしてこの国にはまともな人が一人もいないんだろう。
 先が思いやられる……はふぅ。)



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