「……こんな丘の上にある城の三階にいても、
街の喧噪が風に乗って聞こえてくるんですね。
通りにも色とりどりのテントが並んでますし……。」
「ああ。」
「街中がお祭りの準備で大忙しですね。」
「もうすぐレミィ陛下の戴冠5周年記念式典だからな。
その際、王立劇団がフラッグダンスを披露することに
なっているのだが……。」
「フラッグダンス?」
「シルバニアの国旗を用いた舞踏だ。」
「なるほど。」
「その際に使われる国旗は王立軍から直に渡されるのが、
この国建国以来の古くからの習わしとなっている。
そして、今回もそれを踏襲する。」
「王立軍から直に……。
それはつまり、将軍あるいは師団長から
手渡されるということですか。」
「そういうことだ。
ただ、今日の昼までに渡さなければならないということを
うっかり忘れていてな。」
「え? 今日の昼って……あと4時間ぐらいしかありませんよ?」
「残り4時間以内に王立劇団まで届けるように、
現在この王都にいる他の師団長に
それを頼みたいのだが……。」
「?」
「グリフィスは南のヴァンドレディ公国へ継承問題の調停に、
ユリアは私用でブランドブレイの王都に出掛けている。
帰還は今日の予定だが、昼までに間に合うかは微妙な所だ。」
「じゃあ残ってるのは……」
「アシストとエリーゼは、それぞれ
ウニベルシダー市とバレンタイン市に
外交関係の用事で出張中だ。」
「みんな同時にですか?珍しいですね……。」
「だが、いないものは仕方がない。
とにかく見て分かるとおり現状に於いては、
選ぶ余地はあまりない。」
「つまり……」
「アークライトか、コペルニクスかのどちらかだ。」
「他に選択肢はないんですか?」
「ない。」
「……最悪の二択ですね。」
「秘書。
その最悪の二択の中で
どちらが確実に旗を手渡せると思うか?」
「…………………………………。」
「……そんなに悩むことなのか?」
「ええ。」
「あと10秒時間をやろう。」
「………まだコペルニクス副師団長の方が、確実かと。」
「よし、ならばコペルニクスにこの旗を届け、
王立劇団のウィノナという今回の責任者に『必ず』手渡すように言付けてこい。
絶対かつ確実にだ。いいな?」
「…………結局、
途中までは私が行く羽目になるんですね。
しくしくしく。」
■