Forbidden Palace Library #11 本意なき発言


王都シルバニア
住宅街

素肌を撫でる風が、少しずつ冷たさを研ぎ澄ます。
それの冷たさに引きずられるかのように、大空も次第に色あせて灰色へと変化してゆく。

今年初めての落ち葉が、石畳の街路を駆けぬける。



エリーゼ 「選択肢は、多く見えて実は少ないのよ。」

「どういうことですか?」

エリーゼ 「城壁守備隊の顧問以外にも、
 王立軍の要職のいくつかが空席になったままなの。
 だけど、そこに配置できるだけの人材がいない。」

「え、だって師団長6人もいるじゃないですか。」

エリーゼ 「でもね、今の師団長達の中で、
 シルバニア出身が何人いるかということ。
 ロウクス君やベル君は外国出身だから……。」

「そんな制約があるんですか?」

エリーゼ 「制約というよりは、しがらみと言った方が正しいかもしれないわね。
 外国出身の王立軍司令官というだけで色々と風当たりが強いのに、
 これ以上外部から睨まれるような事はできないのよ。」

エリーゼ 「コペルニクス君は旧宗主国のブランドブレイ王国出身だから、
 出身国という意味ではシルバニアと同格に扱われているけれど、
 まだ副師団長に就いて日が浅いから……。」

エリーゼ 「でも部下の一部に熱狂的な信者がいるみたいだし、
 彼なら実務面では大丈夫だとは思うけど、
 外部から見たら時期尚早な人事に映るかもしれないわね。」

(熱狂的な信者って……。)

「エリーゼ師団長は?」

エリーゼ 「私? 全然経験が足りなすぎるわ。
 なにより今の師団長たちの中で、
 私だけが唯一エンディルとの実戦経験がないのよ。」

「……組織って色々とややこしいんですね。」

エリーゼ 「それに第六師団の長には、本当は別の人が就く予定だったの。」

「え?他に候補がいたということですか?」

エリーゼ 「ええ。先の大戦の英雄よ。
 でも……傷が悪化して、バレンタインでそのまま
 亡くなったらしいの。」

「そうなんですか……。」

エリーゼ 「……この国も平和そうに見えるけど、
 まだ戦後処理から抜け切れていないのよ。
 色々と、ね。」

(師団長は師団長なりに大変なんだなぁ……。)



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