Forbidden Palace Library #11 本意なき発言


王都シルバニア
住宅街

素肌を撫でる風が、少しずつ冷たさを研ぎ澄ます。
それの冷たさに引きずられるかのように、大空も次第に色あせて灰色へと変化してゆく。

今年初めての落ち葉が、石畳の街路を駆けぬける。



アシスト 「よぅ、マルス。ちょいと手伝わないか?」

マルス 「んんん。どうしたんだい、アシスト君。」

アシスト 「時給1リルで俺に雇われないか?
 なぁに、ちょっとした妨害工作を手伝うだけだ。
 そんなに難しい仕事じゃない。」

マルス 「んんん、いいのかい、そんなに高給で。」

「……換算すると時給50円。」

アシスト 「ちっ、秘書いたのか。」

「あのー、争うより話し合いで解決したほうが……。」

マルス 「争う?んんん。穏やかな話じゃないね。」

アシスト 「なぁに、単にダッシュの魔導でちょいとユリアを捕まえるか、
 ウィンドスラッシュの魔導あたりで
 奴の足止めをしてくれればいいんだ。」

「……その前にアシスト師団長が別の意味で捕まるんじゃ。」

マルス 「んんん、力学系の魔導かー。
 アシスト君は祖先が風使いの一族だから得意かもしれないけれど、
 僕は必ずしもそうではないからね。」

「風使いの一族?」

アシスト 「俺も初耳なんだが、なんだそれ?」

マルス 「んんん。ライト家の遠い祖先は、
 パタゴニアの天空軍でパイロットをやっていたみたいだよ。
 その頃の原体験が、後の飛翔魔導に繋がったのかもしれないね。」

アシスト 「パタゴニア? どこだ、それは。
 それにそんな話、
 一度も聞いたことないぞ。」

「は? 天空……パイロッ……ってなんです、それ?」

マルス 「んんん。
 大陸が今とはまだ別の形をしていた大昔の話さ。
 まだ人類が世界中に栄えていた頃の……ね。」

アシスト 「へぇ……そうなのか。
 って、俺も知らないような話を
 どうしてお前が知ってるんだ、マルス?」

マルス 「んんん。
 それを僕が教えることはできない。
 だからアシスト君、キミが自分の力で調べてみるんだ。」

アシスト 「おい、調べるって、そもそもどうやって……。」

マルス 「確か実家は、セリフォスの図書館だったよね?」

アシスト 「!!!」

マルス 「んんん。答えはキミの身近にあるはずだよ。」


さっ

「あ、逃げたっ!」

アシスト 「……マルスのやつ、珍しく真面目な顔してたな。
 って、そうだ!
 あいつを雇おうとしてたんだった!」

「……ややこしい事にならなくてかえってよかった気が。」

アシスト 「何か言ったか、秘書?」

「いえ、なにも。」



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