「よいしょ、どっこらせっ」
「あれ、画家のおじいさん。
そんなにいくつも荷物を抱えて
どこに行くんですか?」
「ん、君か。
いやなに、借りてた宿屋が手狭になったのと、
この街が気に入ったのもあってのぉ」
「近くに部屋を借りることにしたんじゃ。
それで、荷物やら画材やらを移動しておるんじゃが、
この街は馬車が使えなくて難儀しとるんじゃ」
「……リヤカーを借りればいいんじゃないですか?」
「おお。そうか、その手があったか。
でもあと半分もないんじゃ。
このまま何とか運んでみようかのぅ。どっこいしょ」
「足腰、痛めないでくださいね」
「なぁに、まだそこまで歳では……」
「ぐぁっ、こ、腰が……」
「いま言ったばかりじゃないですか!!!
もうお年なんですから無理しないでください!
いますぐお医者さんを呼んできますから!」
「いや、心配には及ばん。
ちょっとだけ支えていてくれんか。
なに、すぐ自分で治す……」
「えっ?」
「ふむ……ここじゃなっ」
「よしよし、これで大丈夫じゃ」
「……え、
今なにやったんです?
自分で自分を叩いたようにしか……」
「なに、人体の構造さえ分かればなんとでもなるものじゃ。
……まさか暗殺のために身につけた技術が
治療にも役立つことになるとはな」
「暗殺?」
「いやいや、こっちの話だ、気にするでない。
……儂も年老いたもんじゃな。
これからはお前達、若者の時代だ」
「そんなこと言ってると、ますます老けますよ」
「なに、真実を言ったまでだ。
もう未来を制限する者もいない。
人類の本当の歴史が、もういちどはじまるのじゃ」
「???」