「うーん、ここにはないなぁ」
「アークライト師団長、何やってるんですか」
「うん、捜し物」
「たぶんそのゴミ箱は、
今日の早朝に回収されたばかりだから
まだ空っぽだと思いますよ」
「うん、
そうみたいだねぇ。
マルスくんもいないみたいだし」
「いえ、あの人の場合は、
そもそもゴミ箱の中にいる事自体が
おかしいんですが」
「あ、そっか。でもマルスくんもう旅立ったんだっけ」
「え?旅立った?」
「うん。自分の戦いに戻るって言ってた」
「自分の、戦い?」
「マルス=アインシュタインを名乗る者にしかできない
見えない戦いがあるんだって。
そうだ、思い出した。秘書君、彼から伝言を預かっているよ」
「伝言?」
「『ありがとう。キミのお陰で、
もう一度立ち上がる勇気を取り戻すことができた。
願わくば、キミに幸あらんことを』だって」
「えっ……私、マルス前師団長に何かしたっけ……?」
「本人は気付いてなくても、
さりげない言葉が人を元気づけてる事だってあるんだよ。
秘書君は、なんだかんだ言っても根が優しいから」
「ジュリアさんの指輪の件も、
力になってくれてありがとう。
まだ見つかってはいないけど、僕からも感謝を」
「……あっ、いえ……別にたいしたことは……」
「その無自覚な謙虚さが、みんなから頼られる要因なのかもしれないね」
(……便利に使われているだけのような気もするけど)