「どうやら検問所が閉ざされているだけでなく、
いつもより多くの兵士が動員されているようですね。
通行できなくなった市民達も遠巻きに見ているだけのようですが……。」
「うーん……いませんね……」
「どうかしましたか、ダリアさん?」
「いえ、いつもならこういう時にあの人が現れるんですが……」
「あの人?」
「誰の事だ?」
「ひっ!」
「うわっ、出たっ!いつからそこに?」
「いましがた。
屋根の上から隠れて城壁の様子を見ていたのだが、
よく見かける顔と珍しい顔がセットで近づいてきたのでな」
「……高枝切りバサミを縮めながら降りてこないでくださいよ。」
「すごい、器用なんだね!」
「器用って言うのかなあ、コレ」
「ジェラードさん。
貴方が敢えて王城に近づいていないということは、
既にある程度の状況は把握していそうですね?」
「! これは――」
「ああ、今は緊急事態ですからお気になさらず。
ひとまず分かっている範囲で構いませんので、
こちらの状況を教えていただけませんか?」
「戒厳令が出たようだな。
指揮系統も市民軍による城壁守備隊に代わり、
今は第三師団の管理下にある。」
「なるほど。
『敵』はユリアさんの指揮権を
何らかの方法で奪取したようですね。」
「俺様が来たときには既にこの有様だ。
こっちの第二師団は半数が訓練のため遠征中、
残りは待機中のはずだが連絡が取れない。」
「……まだ推測の段階ですが、
どうやらこれは偶発的な事件ではなく、
裏に相当大きな計画がありそうですね。」
「レナードお兄ちゃん、大丈夫かなぁ……。」
「あの、ここにレナードさんは来ていませんか?」
「いるはずだぞ。
さっき第一師団の鎧を着た連中に囲まれて、
城壁の内側へと入っていった。」
「!!!」
「ケインさんの師団も、乗っ取られたというわけですか。」
「連れ去られた先に、心当たりは!?」
「城壁の地下には、主に密輸犯を対象とした留置所がある。
幽閉が目的であれば、おそらくそこだろう。
なにせ魔導金属が地下まで伸びている。掘ったところで脱出はできない。」
「何か、方法はないのですか!!!」
「落ち着け、アリス嬢。
多勢に無勢という言葉もある。
まずは正面以外の突破口を探すのが先決だ。」
「……はい……その通り、ですね……」
「ねぇねぇ、ひみつの脱出路とかはないのかなぁ?」
「うーん。
そういう通路があれば早いと思うんだけど、
流石にそんな都合の良い話は――」
「地下通路か。
直接は繋がってはいないが、
かなり近くまでは行けるかもしれん。」
「えええええ!?」