「これは……なんとも生活感に溢れた隠れ家ですね。」
「すごーい!これがひみつけっしゃっていうところ?」
「ねえ、なんでそんな昔から伏線張っておいたの?」
「ん、どうした貴様?何か不満か?」
「いえ、なんでもないです。少し頭痛が……。」
「地下空間ではあるが、
酸欠にならない程度の空調は整備されている。
これほどの大人数が入ったことはないが。」
「そういう類の頭痛ではなくてですね……。」
「それで、この壁一面に貼られた市街図について
説明をお願いできますか?
まずは、青色で描かれたこの線について。」
「おそらく地下通路を示しているものと思いますが、
ここまで精確な位置情報を、どこで入手したのです?
明らかに国家機密に該当するはずです。」
「マルス総統自ら、地表から僅かな空洞音を探り、
孤立した空間と回廊をひとつずつ調べて回ったのだ。
そこから浮かび上がったのが、この地下通路のラインだ。」
「……さては在職中に職権乱用していましたね。」
「否。其を目的として師団長職に就いた、と表現するのが正しいかと。」
「グランさん、貴方まで知っていたかのような口ぶりですね。」
「……エリック=ハミルトンなる者を追い続け、
ここまで辿り着いたるは最近のこと。
一足違いで伝えることは叶わなかったでござる。」
「それが、マルスさんの本名なのですね。」
「左様、左様。
遙か北方の不毛の大地で大陸の真実を知り、
異名にて生きざるを得なくなった、我が伯父貴。」
「……なるほど。彼と血縁関係でしたか。
しかしそこまで自白したということは、
手伝っていただけると考えてよろしいですね?」
「御意。
このグラン=ハミルトン、
義によって助太刀致す。」
「それで、この地図だ。
確かに城壁のすぐ側まで伸びてはいるが、
やはり魔導金属の壁を隔てて向こう側にある。」
「魔導金属って壊せないのー?」
「魔導金属は時間をかけて、
じわじわと固めたり溶かしたりするものなのよ、
デニス。」
「一瞬で破壊しようとすれば、
ウィルバーさんのように禁呪に通じた者の
力が必要になりそうですね。」
「でも、住宅街の付近は、確か歩哨が……」
「……そうですね。
地下通路を経由して、ひとまず
ウィルバーさんの家に行ってみようと思います。」
「承知した。」
「気をつけていってきてくださいね。」
「ダリアさん。」
「え、はい?」
「貴方には、一緒に付いてきていただきたいのですが?」
「えっ、私ですか?!」
「それともジェラードさんと一緒にここに残りますか?」
「あっいえ、それは遠慮しておきます。絶対に」