「では、ここの石壁を壊させていただきましょう。」
「はい。」
「なるべく元に戻しやすいほうが望ましいでしょうから、
切れ目は垂直に入れたほうがいいですかね。
少し離れていてください。」
「あっ、はい。」
「――――ライトニングレイ。」
「えっ、無詠唱!?」
「先祖代々、遺伝的に素養があるようなのです。
その代償といいますか、あるいは反動といいますか、
すぐに睡魔に襲われてしまうのですが……。」
「止まりなさい!そこまでよ!」
「動くな!
武器を捨てて両手を挙げろ!
こちらは減圧魔導の詠唱準備を完了している!」
「ま、待ってください!私です!私!」
「なんだ、秘書か。
もうひとりいるようだが、そいつは誰だ?
敵なら済まんがお前ごと巻き込んで――」
「ああ、敵意はありません。
ですが、その明かりは少し遠ざけていただけませんか。
まだ目が慣れていないのです。」
「!」
「これは――」
「挨拶は抜きにしましょう。
いまはそんな時間も惜しいのです。
ひとまずお二人とも、ご無事なんですね?」
「無事……と言えば無事ですが、家の周囲は包囲されています。
しかし王都の状況が分からない以上、
交戦は避けるべきと考えた末、ロウクスくんが――」
「そういえば空洞音のある地下室があったな、
と思い出してな。来てみたら、
ちょうど何者かが壁を壊して現れたところだ。」
「では、タイミングはよかったわけですね。」
「……何か巻き込まれそうな雰囲気があったんですが?」
「気のせいだ、気のせい。」
「それでウィルバーさん、エリーゼさん。
ひとまずここを脱出して合流を願いたいのですが、
ご同意いただけますか?」
「この穴は……どこへ通じているの?」
「えっと、マルス前師団長の秘密基地だそうです。」
「……あいつ、裏で何やってたんだ?」