「――そうですね。
確かに、勝手に背負わされたほうは、
たまったものではありません。」
「!」
「しかし継承者不在のままでは、
また他の誰かが無理に背負わされる。
同じ宿命が繰り返されるだけです。」
「だったら、市民が等しく責任を背負えばいい。
そのための共和制だ。あとのお膳立ては
商業ギルドの連中が上手くやってくれるさ。」
「それが、お前の背後にいる者達か!」
「……どうやら、肝心なことを知らされていないようですね。」
「肝心なこと?」
「…………。」
「シェルザワード王家の使命は、国民の統治だけではありません。
都市の地下に眠る、かつての火星植民船の維持。
これには遺伝子による認証が必要なのです。」
「火星……植民船?」
「――大陸歴よりも以前、まだ西暦が用いられていた時代。
過去最大規模の世界大戦の果てに、
海は荒れ狂い、大地は引き裂かれ――」
「光速の壁を突破せんとした空間湾曲計画の失敗が、
文明に終焉をもたらせた。結果として、
人類生存可能領域は、この南米大陸わずか一部となった。」
「火星を目指すはずだった植民船ラファエル号──。
四号船となる予定だった方舟は、分裂しながら南米大陸の各地に落下。
残骸となったユニットは、本来の目的地外である地球上にて起動を開始。」
「それからわずか数十年。テラフォーミングシステムにより、
荒野には苔が覆い茂り、土壌を生み出し、急速に森林へと成長した。
そう、ここシルバニア(森林)のようにね。」
「王家は、そのシステム管理者だというのか……?」
「そういうことになります。
もっとも、そのために膨大な理力を有しているとはいえ、
副作用で突然眠ってしまうという欠点もありますが。」
「……もしかして、あの時の無詠唱の魔導も?」
「ええ。そういうことです。
とはいえ、二人の仲を引き裂くのは忍びない。ですから――
私は別の手法で、シェルザワードの血を残そうと思います。」
「エセルベルト殿下、いったいなにを!?」
「エセルベルト?」
「……そろそろダリアさんには
フルネームを明かさなければならないようですね。
もう少し、この立場を楽しみたかったのですが。」
「――我が名は、
グレイフュル=エセルベルト=フォン・ブラウン。
レミィティアーナ女王陛下の再従姉弟にして、王位請求者!」
「……はい?」
「現行法上は王位継承権を有していないが、
同じくシェルザワード王家の血を引く者として、
ここに請求権を主張するものである。」
「……え?」
「つまり、
いまからこの二人に対して、
カウンタークーデターを起こすということです。」
「えええええ!?」