Forbidden Palace Library #12 夢みよ乙女達


これは、黙示録という名の終末が訪れた後、
福音無き世界(サイレントワールド)に生きることを余儀なくされた、
残された人類の物語。




エセルベルト 「レミィティアーナ=キャロリーネ=エル=シェルザワード。
 シルバニア王国統治者にしてシェルザワード王家族長。
 余は汝に対して、退位を要求する。」

エセルベルト 「そして、ユリウス=ハーシェル。
 国家内乱罪は極めて重い。
 法律に従い、二十四時間の猶予後、王国平和喪失刑に処す。」

ダリア 「王国平和喪失刑……?」

レナード 「全ての法的権利が剥奪され、
 財産どころかその命すらも守られない、
 まさに生ける屍になるってことだ。」

ダリア 「でも、二十四時間以内に国境越えなんて、どうやって……」

エセルベルト 「――ちょうど、水先案内人が新婚旅行から帰ってきたようだね。」


ばたんっ

ユリア 「やっほー、秘書ちゃ……うえぇええええ!? で、殿下!?」

アークライト 「あ、グレープフルーツ殿下だ。
 本日はお日柄も良く……えーっと、
 挨拶文なんだっけ?」

ユリア 「グレープフルーツじゃなくてグレイフュル殿下!」

アークライト 「まぁ意味はだいたいあってるよね?」

ユリア 「その理屈だとレミィ陛下をライム陛下と呼ばなくちゃならないじゃない。」

レナード 「違う、論点はそこじゃない。」

レミィティアーナ 「こほん。エセルバート……いえ、エセルベルト。
 貴方は、良いのですか?
 本来ならば継承位のない貴方が背負う必要など、どこにもないのに。」

エセルベルト 「大丈夫だよ、レミィねぇさん。
 紋章院でいつも裏方をこなしてきたからね。
 それに、ちょうどパートナー候補を見つけたところだから。」

ユリウス 「……殿下、お心遣い、痛み入ります。」

ユリア 「ところでおじいちゃん。」

ボイス 「……ぐっ……ワシはもう…………」

ユリア 「それ血だまりじゃなくて、
 ストロベリージャムクッキーでしょ?
 そろそろ起きたら?」

ダリア 「は?」

ボイス 「なんじゃい。バレとったか。」


むくっ

ユリウス 「なっ、じーさん!?てめぇ……!?」

ボイス 「孫のためを思って一芝居打ったつもりだったが、
 余計なお世話だったようじゃな。
 ……たまにはミルククッキー以外も買ってみるものだわい。」

ダリア 「……心配した私が馬鹿みたいですね。」

エセルベルト 「いいじゃないですか、一番丸く収まりそうですし。」

ダリア 「そういえば、水先案内人ってどういうことなんです?」

エセルベルト 「ああ、王国平和喪失刑の話ですか。
 二十四時間を過ぎるまでに領土から退去する必要があります。
 しかし法律を読む限り、その手段は特に限定されていません。」

ダリア 「あ、あのー、まさか……。」

レナード 「アークライトの方向音痴を……いや、空間湾曲を利用して……!?」

レミィティアーナ 「ありがとう、エセルバート。」

ユリウス 「……ありがとうございます、殿下。」

エセルベルト 「あとは頼みましたよ、ケインさん。」

アークライト 「うん、それじゃあ行ってくるね。」

ダリア 「それで、行き先は?」

アークライト 「さぁ、それが僕にもさっぱり。」



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