「レミィティアーナ=キャロリーネ=エル=シェルザワード。
シルバニア王国統治者にしてシェルザワード王家族長。
余は汝に対して、退位を要求する。」
「そして、ユリウス=ハーシェル。
国家内乱罪は極めて重い。
法律に従い、二十四時間の猶予後、王国平和喪失刑に処す。」
「王国平和喪失刑……?」
「全ての法的権利が剥奪され、
財産どころかその命すらも守られない、
まさに生ける屍になるってことだ。」
「でも、二十四時間以内に国境越えなんて、どうやって……」
「――ちょうど、水先案内人が新婚旅行から帰ってきたようだね。」
「やっほー、秘書ちゃ……うえぇええええ!? で、殿下!?」
「あ、グレープフルーツ殿下だ。
本日はお日柄も良く……えーっと、
挨拶文なんだっけ?」
「グレープフルーツじゃなくてグレイフュル殿下!」
「まぁ意味はだいたいあってるよね?」
「その理屈だとレミィ陛下をライム陛下と呼ばなくちゃならないじゃない。」
「違う、論点はそこじゃない。」
「こほん。エセルバート……いえ、エセルベルト。
貴方は、良いのですか?
本来ならば継承位のない貴方が背負う必要など、どこにもないのに。」
「大丈夫だよ、レミィねぇさん。
紋章院でいつも裏方をこなしてきたからね。
それに、ちょうどパートナー候補を見つけたところだから。」
「……殿下、お心遣い、痛み入ります。」
「ところでおじいちゃん。」
「……ぐっ……ワシはもう…………」
「それ血だまりじゃなくて、
ストロベリージャムクッキーでしょ?
そろそろ起きたら?」
「は?」
「なんじゃい。バレとったか。」
「なっ、じーさん!?てめぇ……!?」
「孫のためを思って一芝居打ったつもりだったが、
余計なお世話だったようじゃな。
……たまにはミルククッキー以外も買ってみるものだわい。」
「……心配した私が馬鹿みたいですね。」
「いいじゃないですか、一番丸く収まりそうですし。」
「そういえば、水先案内人ってどういうことなんです?」
「ああ、王国平和喪失刑の話ですか。
二十四時間を過ぎるまでに領土から退去する必要があります。
しかし法律を読む限り、その手段は特に限定されていません。」
「あ、あのー、まさか……。」
「アークライトの方向音痴を……いや、空間湾曲を利用して……!?」
「ありがとう、エセルバート。」
「……ありがとうございます、殿下。」
「あとは頼みましたよ、ケインさん。」
「うん、それじゃあ行ってくるね。」
「それで、行き先は?」
「さぁ、それが僕にもさっぱり。」