Forbidden Palace Library / 『星降らす銀の天蓋』 /

■ メルセデス市
□ リリエンタール邸

エーデル 「……本当に今の依頼、お受けになるのですか?」

メルフィア 「ええ。なにか問題ある?」

エーデル 「いえ。珍しいなと思いまして。」

メルフィア 「……生活するだけなら、
 パパが残してくれたモノでなんとでもなるわ。
 けど、そんなことしてもパパは本当に喜んでくれるとは思えないの。」

エーデル 「…………。」

メルフィア 「面識について嘘か本当かは知らないけど、
 少なくとも今の人はパパを頼ってここまで来てくれた。
 理由としてはそれだけで充分よ。」

エーデル 「お父上様の名誉のために、ということですか。」

メルフィア 「他に何があるの?
 もうこの家以外に、
 私が守れるのはそれぐらいしか残っていないもの。」

エーデル 「……ジェイド様とネフライト様がおられれば、
 また状況は変わったのかもしれませんが。
 致し方ないことかもしれませんね。」

メルフィア 「――手紙の一通すらないわよね。あの二人。」

エーデル 「はい。少なくとも、私の知る範囲では。」

メルフィア 「……本当に、どこ行ったのよ。」

エーデル 「この国にいればどこからか情報が伝わると思うのですが、
 そうでないとすれば国外か、
 あるいは更に遠方に――――。」

メルフィア 「いーえ。もうひとつ、死んでる可能性だってあるわよ。」

エーデル 「お嬢様!」

メルフィア 「……いくら脳天気な弟達でも、
 数年も音信不通なんて普通なら
 考えられないわ。」

エーデル 「どうしても、連絡が取れない状況下にある可能性は。」

メルフィア 「具体的には、何?」

エーデル 「……いえ、思いつきませんが。」

メルフィア 「気休めはいいわ、エーデル。
 みんな家を出て行って、そして誰も戻ってこない。
 現実はただそれだけよ。」

エーデル 「執事の私がおります、お嬢様。」

メルフィア 「ん。
 ……こんなに貴方と喋ったのも久々ね。
 少し気分が落ち着いたわ。」

エーデル 「いえ。
 ずっと塞ぎ込んでおいででしたから、
 わたくしにできることであれば。」

メルフィア 「……工房で依頼品を創ってくるわ。」

エーデル 「はい。ご無理をなさいませんよう。」



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