「……本当に今の依頼、お受けになるのですか?」
「ええ。なにか問題ある?」
「いえ。珍しいなと思いまして。」
「……生活するだけなら、
パパが残してくれたモノでなんとでもなるわ。
けど、そんなことしてもパパは本当に喜んでくれるとは思えないの。」
「…………。」
「面識について嘘か本当かは知らないけど、
少なくとも今の人はパパを頼ってここまで来てくれた。
理由としてはそれだけで充分よ。」
「お父上様の名誉のために、ということですか。」
「他に何があるの?
もうこの家以外に、
私が守れるのはそれぐらいしか残っていないもの。」
「……ジェイド様とネフライト様がおられれば、
また状況は変わったのかもしれませんが。
致し方ないことかもしれませんね。」
「――手紙の一通すらないわよね。あの二人。」
「はい。少なくとも、私の知る範囲では。」
「……本当に、どこ行ったのよ。」
「この国にいればどこからか情報が伝わると思うのですが、
そうでないとすれば国外か、
あるいは更に遠方に――――。」
「いーえ。もうひとつ、死んでる可能性だってあるわよ。」
「お嬢様!」
「……いくら脳天気な弟達でも、
数年も音信不通なんて普通なら
考えられないわ。」
「どうしても、連絡が取れない状況下にある可能性は。」
「具体的には、何?」
「……いえ、思いつきませんが。」
「気休めはいいわ、エーデル。
みんな家を出て行って、そして誰も戻ってこない。
現実はただそれだけよ。」
「執事の私がおります、お嬢様。」
「ん。
……こんなに貴方と喋ったのも久々ね。
少し気分が落ち着いたわ。」
「いえ。
ずっと塞ぎ込んでおいででしたから、
わたくしにできることであれば。」
「……工房で依頼品を創ってくるわ。」
「はい。ご無理をなさいませんよう。」